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共謀④
「どうかしたのか!」
外野で見守っていた拓未が何かの異変を感じ取ったのか、すぐに声が飛んできた。
「大丈夫ですよっ、父さん」
眞門は平然とした顔をすぐに取り戻すと、拓未に向かって答えた。
「星斗への愛を語っていたら、少し興奮してしまって・・・」と、何事もなかったかのように誤魔化した。
眞門は、「Stand Up 」と、Commandを出す。
星斗が立ち上がると、眞門はすぐに星斗を抱きしめた。
「ありがとう」と、耳元で囁く。
「いいえ。大丈夫ですか?」
「どうかな・・・星斗の可愛い顔を見てたら、知らない間にDomに飲みこまれてたよ」
星斗に心配を掛けまいとする気遣いか、眞門はまだ心の余裕はある、そんな態度を示してみせた。
しかし、それとは反するように、星斗のことをギュっと強く抱きしめる。
繋がったリードから、眞門の怯えが星斗の体に流れ込んでくる。
当然だよね。
知未さんが一番怖いに決まってるよね。
眞門の想いが伝わった星斗は、眞門を絶対に守りたい一心からある策を練る。
星斗は小声で、眞門の耳元で囁く。
「・・・あの、俺のお願いを聞いてくれますか」
「なに?」
「こんなところから出たい」
「・・・・・」
「・・・だから、俺と共謀してくれませんか」
「・・・・・」
「こんなところが俺たちの最後になるなんて絶対にイヤだ」
「・・・・・」
「これが最後になるなら、ふたりきりでPlayしたい」
「・・・・・」
眞門は返答に迷った。
どうすれば良いか分からなくなったからだ。
プロポーズした直後までならすぐに反対しただろう。
しかし、また、簡単にDom性に飲みこまれしまった以上、この先なにが起こるか分からない。
それならば、星斗の思いを叶えてやるこそが、星斗にしてやれる最後の愛情かもしれない。
眞門は決断を下す。
「・・・分かった。どうすれば良い?」
星斗は眞門の耳元で何やら囁く。
眞門は「分かった」と、言うように軽く何度か頷いた。
と、抱きしめ合うことをやめたふたり。
次に視線を合わせると、「始めるよ」と、今度は合図を送る様に互いに頷いてみせる。
と、眞門がいきなり、星斗の両手を奪い、両手首を天井からつるされたロープへと結びつけて、両腕をバンザイさせる格好で星斗を拘束した。
そして、星斗の背後に回ると、後ろから胸に両手を回し、星斗のシャツを乱暴に左右に引きちぎった。
「!」
星斗の上半身が露わになると、眞門は星斗の両方の乳首を荒々しく虐めだす。
「・・・イヤだっ!」
星斗が示し合わせたように叫んだ。
「イヤだ・・・イヤだっ、知未さん、やめて!」
「どうして? 折角だから、ふたりに見てもらおうよ」
眞門は、拓未と明生に聞こえるようにわざと少し大きく声を出す。
「そんなこと言ってないっ! 俺は知未さんだけで良いっ、知未さんだけにしか見られたくないんだっ!」
「でも、俺達のPlayをあの二人には見てもらわないと」
「・・・もう、イヤだ、お願いだから、もう触らないで!」
星斗は泣き喚いた。
なかなか始まらないPlayに若干の苛立ちを感じていた拓未と明生だったが、その理由がふたりの言い争う姿で察することが出来た。
Playを嫌がる星斗を眞門がなんとか宥めてPlayに持ち込もうとしているが、それで小競り合いが起きてしまい、なかなかPlayが始まらない状態だったのか、と、理解した。
Playを嫌がって泣き喚く星斗を見て、今まで静観していた明生だったが、さすがに、このPlayの提案者としての罪を感じてしまったのか、凝視できなくなり、思わず下を向いてしまった。
「・・・星斗、落ち着いてっ!」
ガラス張りの小部屋の中では、共謀する星斗と眞門の嘘の演技が続く。
「イヤだ、こんなPlayは本当にイヤなんだっ! こんな場所が最後になるなんて思ったら・・・! プロポーズされた場所が最後になるなんて絶対にイヤだっ、だから、これ以上、俺に触らないで!!」
お芝居だが、星斗は、自分の内に押し殺していた気持ちを正直に精いっぱい喚き散らした。
「そこまでだ、知未!」
拓未がふたりに制止を呼び掛けた。
「それ以上、無理に続けても、知未の症状を確かめる前に星斗クンがSub dropを起こす。そしたら、元も子もない」
拓未の制止の言葉を聞いて、星斗と眞門は計画通りに行ったと安堵する。
拓未の提言を聞くなり、明生は自分の罪にさいなまされたのか、何も言い残すことなく、『Play Room』から飛び出して行ってしまった。
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