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監視室にて②

「星斗クンに関してはそれは考えられないんだ」 と、拓未はすぐに否定した。 「以前、星斗クンと会話した内容から考えて、星斗クンは露出で悦びを感じてしまうようなSubじゃないんだ。 彼は単純じゃないんだよ。 Normal育ちのせいか、どうも悦びの感じ方が複雑と言うか、理解しがたいところがある。 それよりも、気になるのは、やっぱり知未のDom性なんだ。 知未は、星斗クンに首輪を付けていないからという理由だけで、家で軟禁することを選ぶようなDomだ。 私が勝手に連れ出して、星斗クンの手首を拘束してただけで、鬼のような顔をして激高したんぞ。 『俺が大事に扱っているSubに何をするんだっ!』ってね。 そこまで愛するSubに、なんでいきなりあんな辱めを受けさせた? 自分から言いだしたんだぞ。 監視カメラがある部屋で二人きりにしろって。 あいつは、最初から我々に見せるつもりだったとしたら・・・? Subを普段からあそこまで大切に扱うDomなら、優しいPlayを選択するはずなんだ。 体をくすぐってもいいし、スボンの上からスパンキングするだけで充分だ。 しかも、自分の命が懸かった、試される大事なPlayだ。 なのに、あいつは自ら、あんな辱めを星斗クンに受けさせた。 私はそれがどうしても理解できない。 普段のあいつなら、絶対に取るような行動じゃない」 拓未は長々と自分が気になっているポイントを一気に説明した。 「それじゃあ、Sub dropさせたくて、兄貴が最も嫌がるような辱めを真っ先に選んだとか・・・? それじゃあ、やっぱり、Sub drop症候群ですか!?」 「いや、それも考えられないんだ。 Subは案外強い生き物だ。 あんなことぐらいで、Sub dropはまずしないっ。 あんなのでSub dropしてたら、この世の中、Sub dropばかり起きて大変なことになる。 それに本当にSub dropさせた興奮を味わいたいなら、最も手っ取り早くて最高な方法が知未にはある」 「なんですか?」 「愛してるって言ったのは嘘だって言うんだよ。 プロポーズを本気にしてバカじゃないのかって。 そう言って、贈った首輪を無理やり外す。 Play中に信頼してるDomからそんな裏切り行為をされたら、Subは間違いなくSub drop(昇天)する。 幸せの絶頂からいきなり絶望へと突き落とすんだ。 Sub drop症候群に襲われているDomがいたら、その快感をみすみす見逃すわけがない。 が、あいつはリードをまた付けた。 星斗クンと意思疎通を図るために。 あいつは、Sub dropさせる気なんてさらさらないし、手放すことなんて考えいないっていう意思表示をしたんだ。 しかも、あいつははっきりとSub drop症候群じゃないことを私たちに証明してみせるとも言った」 「じゃあ、眞門さんはSub drop症候群じゃない?」 「ああ。今、行われているPlayを見る限り、私はそう判断する。信頼して、サブスペに入ってる星斗クンの様子から見てもそれが正しいだろう。ただ・・・知未に問題がないとは言えない」 「どんなですか?」 「フン・・・」 拓未は鼻から大きく息を吐くと言葉を詰まらせた。 そして、腕を胸の前で組み、なにやら考え込む。 「最も近い言葉で表すなら、人格か」 「人格?」 「まるで、人格が入れ替わっているようだ。 私を恐れることなく、挑発的な目つきで見つめ返してきたことに、あいつ自身がSub drop症候群じゃないことを証明してみせると言った時の自信に満ちた顔。 それに星斗クンに対しての躾を施すようなPlay。 あれは、星斗クンのSub性を喜ばす為じゃなく、自分の色に染めようとする調教のようなPlayだ。 しかも、あいつは過去に自分でも口にしてるんだ。 まるで、自分の中にもうひとりの違う自分がいるみたいだって。 そいつが出てくるとどうしようもなくなるって。 ・・・しかし、Play中に人格が変わってしまうなんて症状は私は今まで一度も聞いたことがないっ」 拓未は困ったように声を上げた。 マスターの立場として、DomSubカップルの問題解決の指南役として活動してきた拓未だっだが、今まで見聞したことのない案件に首を傾げるだけだった。 「・・・えっ、じゃあ、兄貴たちはこれからどうなるんですか?」 拓未は「分からない・・・」と、言わんばかりに、大きく首を横に振った。

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