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帰還②
星斗はドアを閉めると、急いで服を着て、拓未の自室がある五階へと向かった。
星斗がリビングのソファに腰を下ろすと、
「お腹は空いていないかい? 何か食べるかい?」
と、拓未に尋ねられた。
「いいえ、大丈夫です」
「そうか。じゃあ、何か食べたくなったら、いつでも言いなさい。丸一日も寝てたんだから」
「えっ!?」
星斗は素直に驚いた。
とてもぐっすりと眠った感触はあるが、まさか、それほどまで長く眠っていたとは思いもしなかったからだ。
「仕方ないだろう。久々のPlayがあんなに激しいものだったんだから」
「!」
星斗は赤面して、思わず下を向いた。
そうだった!!
お父様はカメラ越しとはいえ、全部見てたんだ。
俺のあんなところやこんなところまで・・・。
キツいよ、キツいって、この状況は・・・。
俺はどんな顔をしてればいいの???
知未さんを起こしておくべきだった・・・。
破廉恥な姿を見せた婚約者の父の前では恐縮してるしかなかった。
と、星斗は、もうひとつ大事なことを思い出す。
「・・・あのー、明生は?」
「彼なら昨日に帰したよ。学校だってあるしね」
「そうですか」
明生とは顔を合わせずに済むんだと思い、それは胸をなで下ろした。
「何はともあれ、ふたりのPlayを見せてもらったよ」
拓未が本題を切り出す。
「それで星斗クンに聞いておきたいことがあってね。出来れば、正直に答えて欲しいんだ。知未は、いつも、昨日みたいなPlayなのかい?」
「えっ?」
星斗は質問された意図が分からなく、思わず聞き返した。
が、イヤな予感だけは感じ取った。
お父様は何かを感じ取ったんだ。
そう思うと、イヤな予感がして星斗は、返答に困り、口籠った。
「・・・やっぱり、そうなんだね」
星斗の困った顔色を見て、拓未はそう呟く。
拓未は優しい顔を見せると、
「知未のことをどう庇えば良いか考えてるんだろう?」
と、見事に星斗の心中を察してみせた。
星斗はすぐに観念することを決める。
いくら嘘を並べてたって、マスターの能力のGlareとCommandのコンボ攻撃を受けたら、全て暴かれてしまうんだった。
それを思い出した星斗は、正直に話すことに決めた。
「ああいったPlayは多いです」
「ああいった、とは?」
「なんていえば上手く伝わるのか分かりませんが、知未さんの内なるDom性が暴走するって感じです。いつも優しい知未さんが突然、豹変する。そんな感じです」
星斗は普段、自分が感じていることを自分なりの言葉で伝えた。
「怖くはないのかい?」
「怖くないって言えば嘘になりますけど、イヤじゃないです。
どんなことをしても、俺を自分のものにしてやるっていう、所有欲の塊みたいな、強引に迫ってくるDom特有な感じ。
あれ、ゾクゾクするんです。
俺、この人の所有物になるんだって。
昨日もそれに魅了されて、カメラでお父様たちに見られてるって分かっているのに、あんな醜態を晒してしまったんだと思います」
星斗は恥ずかしさも交えながら、正直に言葉にする。
「普段の知未さんは本当に温厚な人です。
俺が本気で嫌がるようなことは絶対にしてこないし、とても思いやりがある、全然Domぽくない人だと思います。
だから、Normal育ちの俺は側にずっと居てられるんだと思います。
けど、俺がSubのせいか、それが時々、物足りないって感じる時もあるんです。
普段の知未さんが当然、一番大好きですけど、あのDom性が暴走している知未さんの冷徹な顔や逃げ出さないように俺を包囲する為に伸びてくる手、特に俺の物になれっていう瞳でじっと見つめてくるのは・・・たまらなくて・・・俺は嫌いじゃないです・・・」
星斗はDom性が暴走している状態の眞門を思いだしながら、口にしているのか、とても表情が色っぽくなった。
それをじっと観察していた拓未は、星斗が初めてSubらしい顔を見せた、と思った。
こんな顔は嘘をついている出来る顔ではない、と感じた。
「でも、知未にいつか傷つけられるかもしれない。そんな恐怖はないのかい? 現にキミはあいつにSub dropさせられているだろう?」
「ああ、それは全くありません。根拠はありませんけど、知未さんはどんな状態になっても俺を絶対に傷つけないっていう自信がありますから」
星斗は軽い口調で平然と言ってのけた。
「どうして?! どうして、そんな簡単に言い切るんだね!?」
「だから、どうしてって言われても・・・」
星斗は胸の前で腕を組んで、首を傾げた。
「ウーン」と、唸る様に少し考え込むと、「・・・知未さんの瞳を見てたら分かるんです。としか、言えません。だから、Play中にDom性が暴走した知未さんが現れたら、怖いですけど、ラッキーぐらいに思ってます」
とても能天気に答える星斗に、拓未は思わず呆けた。
「Normal育ちのくせに、怖いもの知らずだな・・・」と、呆れる様に呟くが、「いや、Normal育ちだから、怖いもの知らずなのか・・・」と、心の中で考え直した。
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