222 / 311

帰還⑤

「そうだ、しばらくの間、会社を休むことにしてあるんだ。この機会に、ふたりきりで近場の温泉にでも行くか?」 「え!?」 「Playを控える分、ふたりで楽しいことしようよ。 期間限定のパートナーだった時を思い出してさ。 あの時は、ふたりでゆっくり旅行する暇なんてなかったし、勿論、罰ゲームをかけた勝負はなしになるけど、今ならさ、そう言うのがなくても、ふたりでいれば楽しいと思うんだ・・・」 そう言って、今から楽しい温泉旅行の計画を話し合うとするはずの眞門の表情は、やはり、どこか冴えない。 そんなことをしたところで、問題は何も解決できない。 そう思ってしまうと、この先の未来に希望なんて見いだせない、そんな気持ちで眞門の胸はいっぱいだった。 暗い影を落とす眞門に、 「大丈夫ですよ」 と、星斗は努めて明るく声を掛ける。 「なにが?」 「自信を持ってください」 「・・・・・」 「俺が断言してあげます。 知未さんはどんな状況になっても、俺を絶対に酷い目に遭わせたりしません。 俺がそれを一番によく分かっているんです。 だから、一緒に帰るんです」 「星斗・・・」 「俺を見る知未さんの瞳はいつもそう言ってくれています。どんな時でも『愛してる』って。だから、俺のご主人様で居て欲しいんです」 そう伝えると、星斗は眞門の不安を払拭するかのように思いっきり微笑んで見せた。 その笑顔を見た眞門は自分自身がとても情けなくなった。 Domのくせに、何弱気になってんだ・・・っ、と、眞門は反省する。 俺は星斗の良いご主人様になるんだろうっ! そう決めて、よりを戻したんだろうっ! そうだ、俺は絶対に星斗を幸せにする。 たとえ、この症状が永遠に続いたとしても、幸せにしてやる。 眞門は自分に発破をかけ、弱気だった気持ちを奮い立たせる。 「ごめん。弱気になってた。そうだよな、俺は星斗のご主人様なんだから、俺が弱気になってどうするんだって話だよな」 眞門は少し元気を取り戻した。 「はい、その通りです。ご主人様」 星斗が元気づける様に返すと、眞門の顔に自然と笑顔が戻っていった。

ともだちにシェアしよう!