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不満のない生活
眞門の家に星斗が戻ってきて3日ほど経過したが、何事もなく、ふたりは穏やかな日々を過ごしていた。
朝を迎えて、ほんのりとゆっくりと目を覚ました星斗だが、まだ夢心地の中にいる気がして、ベッドから抜け出せずにいた。
幸せだ。
毎日、これでもかと言うぐらい、知未さんとイチャイチャしては、べったりしている。
それだけで一日が終わっていく。
食事とトイレ以外のほとんどは知未さんにへばり付いたまま、陽が沈んだら、一緒にお風呂に入って体の洗いっこをして、湯船につかりながら、まだ決めかねている、どの温泉地に行くかのおしゃべりをしている。
風呂から上がると、知未さんが俺の体を隅々まで拭いてくれて、髪も乾かせてくれて、パジャマも着させてくれる。
その後は寝る前の水分も取る様に飲み物まで用意してくれる。
で、眠くなると、抱えてもらって寝室に連れて行ってもらって、後は知未さんに抱き着いたまま眠りにつく。
とにかく、最高に幸せだ!
Playなんかしなくても、全然幸せだ!!
イチャイチャだけで充分。
そもそも、愛し合ってる俺たちにPlayなんか必要ないんだよっ!
だって、今だって、めちゃくちゃ気分の良い寝起きを迎えてる。
俺、今なら、何でも乗り越えられる
そう思えるもん。
DomSubのみんなは固定概念に囚われているだけだっ。
生きていくにはPlayが必要なんだっていう事に囚われすぎっ!
愛があったら、そもそもPlayなんかいらないんだよって、大声で叫んで教えてあげたいっ!!
あー、俺は、ずーっと、知未さんとくっ付いていられたら、Playなんかなくても良い・・・。
そう思って、星斗は隣にいるであろう眞門に抱き着こうと手を伸ばした。
「・・・・・」
あれ・・・?
・・・いない。
星斗は目をパカッ!と見開くと、急いで隣を視認する。
いつもは一緒に朝を迎えている眞門の姿がない。
星斗は急いでベッドから出てると、眞門の姿を探して、リビングに向かった。
螺旋階段を上がり、リビングにやって来ると、眞門はソファに座り新聞を読んでいた。
眞門が居たことをに安堵すると、「おはようございます」と、星斗は声を掛けた。
「おはよう」
新聞から星斗に視線を移すと、眞門は優しく返事する。
「朝食を食べる?」
「へ?」
「朝食を準備しておいてあげるから、その間に顔を洗っておいで」
星斗がキッチンにあるダイニングテーブルに目をやると、食用ラップフィルムで保護されたオムレツとソーセージの乗った皿が置いてあった。
「これ、知未さんが作ってくれたんですか!?」
星斗は思わず感激してしまう。
「ああ。朝からおいしいパンも買って来て、100%のオレンジジュースも買ってきておいたよ。星斗はコーヒー苦手だからさ」
星斗は感激のあまり、瞳をキラキラと輝かせる。
俺のご主人様は神レベルだ!!!
「本当は一緒に食べようかと思ったんだけど、よく眠ってたから起こさずに、俺は先に済ませたよ」
と、眞門が言うと、
「そうですか・・・」
と、キラキラとした表情から一変、星斗はしょんぼりとする。
「どうした?」
「いや、一緒に食べたかったなーって」
しょげる星斗が可愛く映ったのか、眞門はフっと笑みを零れると、「おいで」と、星斗を優しく呼び寄せた。
それはCommandではなかったが、星斗はCommandで呼び寄せられたように、勝手に体が動いた気がした。
星斗は何も指示をされていないのに、当り前のように眞門の膝の上に座った。
と、すぐに背後から眞門が星斗を抱きしめる。
「じゃあ、明日の朝は一緒に食べよう。近くのカフェにでも行って。目が覚めたら行こうか。ブランチになっても構わないし」
「はい!」
星斗はすぐに機嫌が良くなり、元気に返事した。
「そう言えば、期間限定のパートナーだった時はよくブランチしたね」
「そうでしたね。俺、あの頃はずっとソワソワしてたなー。知未さんが次の約束をいつ誘ってくれるんだろうと期待して」
「そうだったんだ」
「はい。今は嘘みたいにこんなに側に居れるなんて・・・」
見つめ合うと、ふたりは軽く口づけをした。
軽く、数回、唇を重ね合う。
「今はこれで我慢」
「はい」
ふたりの気持ちが燃え上がってしまう前に、眞門がブレーキをかける。
「そうだ、今夜の夕食は俺が作りますっ」
「え!? 料理は出来たっけ?」
「全く出来ませんっ」
星斗が潔く認めると、眞門は思わず笑った。
「でも、俺もなんかしたいんですーっ」
「分かった。じゃあ、俺も料理は得意じゃないからさ、ふたりで協力して今晩は夕食を作ろうよ」
「はいっ」
「じゃあ、早く顔を洗っておいで」
「はいっ」
星斗は眞門の膝から立ち上がると、洗面所に向かった。
星斗が洗面所に向かっていく背を見送りながら、眞門は大きなあくびをひとつしてしまった。
眞門は「ヤバ・・・っ」と、小さく洩らし、星斗に見られていないかを確認した。
星斗は眞門の様子に何も気づかず、そのままリビングを出て行った。
星斗が居なくなると、「・・・また不眠症になったかな」と、眞門は小さく洩らした。
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