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・・・それは控えめなPlay!?
「・・・俺、これ、ダメかも・・・」
星斗が弱々しく洩らす。
「どうして?」
そう尋ねる眞門の左手には、どこで調達してきたのか知らないが、革製のリードの握り部分が握りしめてある。
勿論、そのリードの繋がれた先は星斗の首輪だ。
眞門は買い物かごを乗せたカートを右手で器用に操作しながら、左手は星斗と繋がるリードを操っていた。
「誰でも良いから、見せびらかすつもりで付けてきたんだろう? 俺が贈った首輪 を」
「そういうわけじゃ・・・」
「だから、目立つようにそんなに大きく胸をはだけさせてるんでしょ?」
「・・・・・」
「じゃあ、贈り主が誰かも知ってもらいたいじゃない。俺がリードを持っているのを見たら、誰だって、俺が星斗のご主人様だって分かってもらえる」
眞門は言い終わると、嬉しそうにニコっと微笑んだ。
「・・・・・」
星斗は恥ずかしさで気持ちがいっぱいいっぱいになって、思わず下を向いた。
平日の昼間の時間帯ということもあって、店内はさほど混雑はしていない。
しかし、それでも、ふたりとすれ違う買い物客らは、みなそれぞれに思い思いの表情を浮かべて通り過ぎていく。
「なんなの!?」そんな感じでパッと驚く顔をする者もいれば、
「汚らわしい」そんな怪訝な表情を浮かべる者、
また、陰口でも叩くかのようにヒソヒソと耳打ちで話し込む者たちや、中にはとてもイヤらしい目つきで星斗を舐め回すように見る者もいた。
「・・・知未さんは・・・恥ずかしくないんですか?」
「どうして?」
「だって、絶対、ジロジロ見られる・・・」
星斗はか細い声で洩らした。
「俺は全然恥ずかしくないよ。というか、俺は星斗を見せびらかしてるんだから」
「・・・・・」
「今度結婚する、俺の可愛いSubです。そんな感じで」
眞門はそう言うと、半分冗談なのだろうか、おどけた顔をする。
「星斗はどうなの? そう聞くってことは恥ずかしいの?」
「俺は・・・」
眞門は急に立ち止まった。
「全然そうは見えないんだけど」
「・・・・・」
「むしろ、俺より楽しんでない?」
「・・・・・」
眞門はそっと星斗の耳元に近づくと、囁く。
「いいかい? それ以上、みっともないイヤらしい顔をこのまま晒し続けたら、後で承知しないからね。お仕置きが待ってるよ」
「!」
からかいなのか、それとも本音からの命令なのか、眞門が囁いた真意は分からないが、星斗の胸はキュンキュンと高鳴ってしまう。
眞門は星斗を見つめると、
「イヤらしい顔を見せて良いのは俺の前だけだって、前にちゃんと約束したよね?」
そう念押しする眞門の顔はどこか怒っているようにも見えた。
星斗は恐縮して、また俯く。
・・・ダメだ。
どうしよう。
俺、ヤバいことになってる。
完全にヤバいことになってる。
知未さんに指摘された通り、俺、ありえないぐらいに興奮してるーーーっっっ!!
今はそれを隠すので精いっぱいだ。
なんだ、これ!?
なんで、こんなことになっちゃってんの!?
どうして、俺はこんなに異様に興奮してるの!?
頭がおかしくなった!?
今の俺の格好はNormalの人達から見たら、完全にただの変態野郎。
首輪にリードなんか付けられて、スーパーの店内を歩いて、見られることに悦んでいるただの変態ドМ野郎。
・・・なのに、頭では分かっているのに、なんで、こんなに興奮が止まんないの!?
今にもチンコが完勃ちしそうで苦しい・・・これ、どう治めたら良い・・・?
星斗はとにかく興奮を鎮めようと思い、周囲の視線を意識をしないよう、俯いたまま歩いた。
全くなんなんだよ、この高ぶっていく気持ちは・・・!!!
『俺は知未さんのSubです』
俺を知らない人にそう知らしめていることにとても興奮してる。
俺は毎回、このご主人様に下品なことをされていて、お仕置きもされていて、トロトロにさせられる。
そんなしなくても良いカミングアウトを堂々としてしまっているような気がして、視線を感じる度に興奮が止まらないっ!
俺という人間は、Subに生まれてきたばっかりに、知未さん に、とんでもないことやあられもないことをされている。
そんな蔑んだ想像を知らない人たちにされている。
そう思うと興奮がどんどん高まっていく。
まさか、義父や実弟が見てる前で何度も激しく犯されて悦んでた破廉恥な奴、なんてゲスな想像されてたらどうしよう・・・。
そんな破廉恥極まりない行為を悦んで受け入れていたなんて最低なクズSubだ、なんて見下されてたらどうしよう・・・。
・・・なんてことを、見知らぬ人たちに下世話に想像されているかと思うと、どうしてだか、興奮が収まらないっ。
・・・なんでっ!!!
ヤバいっ、俺!!
どうしたの!!?
こんなことで興奮するような奴じゃなかった。
俺は知未さんに相手にしてもらえるだけで充分だった。
俺は知未さん好みのSubになりたい。
それだけだった。
・・・ひょっとして、これが俺の中にいるSub?
イヤだ、そんなのっ。
ただの変態じゃんっ。
俺は変態じゃないっ。
俺は絶対に変態じゃないっっっ!!
「星斗」
「!」
「どうしたの? 顔色悪いよ」
眞門に呼びかけられて、星斗は妄想の世界から呼び戻された気がした。
「知未さん、俺・・・」
「ン?」
「俺がカートを押してもいいですか?」
「え?」
「俺がカートを押してもいいですか?」
「別にいいけど・・・」
眞門が了承すると、星斗はカートの前に立って、カートを押して進みだした。
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