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謎の男
眞門が『青』と呼んだ男は見た目が三十歳半ばぐらい、スラリとした長身であっさりとした顔立ちの、それを象徴する切れ長の目がどことなく冷めた印象を与える。
「ここに座っても?」
青は、先程まで星斗が座っていた席に座っても良いかどうかを尋ねてくる。
「・・・まあ、連れが戻ってくるまでなら」
ある理由から青を冷たくあしらうわけにはいかない眞門は渋々、承諾した。
「どうも」
眞門の嫌がる素振りも気にすることなく、青は着席する。
青と呼ばれる男は、見るからに値段の高そうなスーツを身に纏っている。
「お久しぶりですね、ミチさん」
繊細そうな顔立ちとは似つかわしくない、とても色気のある低音ボイスで、青は眞門のことを"ミチ"と呼んだ。
「あなたのことがずっと恋しくてたまりませんでしたよ」
「止めてくださいよ、そういう言い方するの。あなたとはそういう関係じゃないでしょう」
「随分と、つれない言い方してくれますね」
「確かに、あの節はお世話になりましたけど、あれはビジネスじゃないですか」
「さっきまで、ここに座っていらっしゃった方は?」
「その質問をあなたに答える必要はないと思いますが」
「随分と若いSubの方をお連れで」
「・・・・・」
何が言いたいのか?
眞門の顔つきが厳しくなった。
「誰だって分かりますよ。
首輪 を付けていらっしゃるんですから。ゴージャスな首輪です。Domに愛されているんだなって、すぐに分かりました」
青という人物の素性を知る眞門は警戒して、厳しい表情を崩さない。
「なんだか意外でした。あなたはもっとこう・・・おしとやかで教養があって、なおかつ色気のあるSubがタイプだと思ってましたので。一言で言うと、Domが永遠的な憧れを持つ古風なSubって感じの」
「・・・・・」
「さっきの方とはもう親密な間柄で? それで、最近、うちをご利用してくれないんですか?」
「これなんですか? 営業ですか? なら、見ての通り間に合っているで」
「全く、つれないな・・・」
青は苦笑いを浮かべる。
「あの方が、ミチさんが長年片思いされてた方ですか?」
「それを青さんに答える義務はないと思います。あの、もうこの辺でいいですか。
あなたといるところを彼には絶対に見られたくはないので」
「どうしてです? あのSubを交えて、3Pでもしましょうよ? 昔を思い出して」
「だから、きら・・・彼はそういうSubじゃないんですっ。とにかく、彼がここに戻ってくる前に、一刻も早くこの場から去ってもらえませんか」
「珍しいですね。いつも冷静沈着なミチさんがそんなに焦るなんて。あのSubに、私との過去をそんなに知られたくないんですか」
「当然じゃないですかっ。首輪 を贈ったってことはそういう間柄です。俺は彼をとても大切に思っています」
「そうですか。それはとても安心しました」
安心したってどういう事なのだろう・・・?
眞門は不可解に思うとが、一向に席から立ち上がろうとしない青に、さすがに業を煮やす。
「・・・あのっ、もういいですかっ! 俺達、今とても複雑な事情を抱えていて、これ以上、問題を増やしたくないんですよっ」
「どんな問題ですか? よろしければ相談に乗りますよ」
「結構です。彼に変な誤解を与えたくないんです。だから、お願いします。彼にあなたの存在を知られる前に早く席を立って、ここから居なくなってくださいっ!」
「それは無理なんですよ」
「はい?」
眞門が聞き返した瞬間、
「・・・父ちゃん?」
と、トイレから戻って来たばかりの星斗が青を見て、そう口にする。
「!? ・・・父ちゃん!?」
眞門は愕然とする。
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