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謎の男②

星斗は青の側まで来ると、「なんで、父ちゃんがこんなところにいるの!?」と、驚いた顔を見せる。 「!!!」 その言葉を聞いて、眞門は愕然とする。 青さんが星斗の父親!? それが分かった途端、眞門は青ざめる。 「いや、ちょうど、ここで食事をしていたら、星斗に似た姿を見かけたから、この方に声を掛けて確かめていたところだ・・・ねえ?」 青は白々しく、眞門に返答を求める。 「・・・え、あ、はい、はい・・・」 動揺を隠し切れない眞門は、適当に相槌を打つ。 「元気にしてたか?」 「うん」 「加奈子さん、心配してるぞ」 「うん、明生から聞いてる。母ちゃんには心配かけてごめんって伝えておいて」 「ああ。で、こちらの方は?」 青は白々しく、眞門のことを星斗に尋ねる。 「あ、そうだ・・・知未さんのことを紹介しないと、えっと・・・」 ここに来て、星斗は青に眞門のことをどう紹介するか悩んでしまう。 Normal性の青に自分がSubであること、男の恋人がいること、その恋人と婚約したこと、今更ながら自分の口から何も伝えていないことに気がついたからだ。 星斗の父、青は仕事にかまけて、ほとんど家を空けている。 なので、顔を合わす機会がないまま、星斗は家を出て、眞門と同棲を始めた。 その為、一緒にいる男性(同性)を婚約者といきなり紹介したら、Normal性の青はカルチャーショックを受けてどうにかならないかと心配になる。 星斗が難しい表情を浮かべ、考え込んでいると、青は見かねたのか、 「加奈子さんから話はちゃんと聞いてるよ。お前、Sub性で男のDomと婚約したんだってな」 と、助け舟を出す。 と、その時、星斗の首にさっきまであった首輪がなくなったことに気づき、青は渋い顔を浮かべた。 「そうなんだ。母ちゃんから話は聞いてくれているんだね。当り前か。じゃあ、紹介するね、その相手が目の前にいる眞門知未さんです」 あまりの突然の出来事に、なんの心の準備も出来ていなかった眞門は、「・・・ご挨拶が大変遅れて申し訳ありません・・・眞門知未と申します。MA-MONレンズで社長をしております」と、慣れたいつもの営業スタイルの挨拶を口にした。 神妙な顔をする眞門がおかしかったのか、青はフンと軽く鼻で笑った。 だまし討ちをされたことに頭にくる眞門だが、青と実は親しい関係であることを星斗には絶対に知られたくない以上、グッとその気持ちを抑えて、かしこまった表情を崩さなかった。 星斗は改まった態度を取ると、「知未さん」と、眞門に呼び掛ける。 「随分と紹介が出来なくてすみませんでした。こちらが俺の父ちゃんです」 「どうもはじめまして。先程は失礼いたしました」 星斗に実父だと紹介された青こと、渋谷青司(せいじ)は何もなかったかのように、ニッコリと微笑んだ。 その笑みを見て、やはり、20歳過ぎた息子を持つ父とは思えないほど見た目が若い。 「いえ、こちらこそ、挨拶が大変遅れまして、申し訳ありませんでした」 眞門は青が星斗の父だと分かった以上、深々と頭を下げた。 「それで、どうなっているんですか?」 青司は眞門にいきなり切れ込む。 「何がでしょう?」 「勿論、結婚ですよ」 「・・・・・」 「あなた、結婚前提を条件にうちの息子を連れ出して、半ば強引に一緒に暮らしているんですよね?」 「・・・・・」 「どうされるつもりで、こんな無責任なことを?」 「・・・・・」 「いつになったら、私達の元に正式に結婚のご挨拶に来てくださるんですか? うちの妻も大変心配していましてね」 先程とは打って変わって立場が逆転したように、青司が眞門を問い詰める。 「それがですね・・・」 「まさか、まだお父様からのお許しが頂けていないんですか?」 「いや、そう言うわけではありません・・・」 「じゃあ、何ですか?」 母の加奈子同様、青司も厳格な性格の様だ。 返答に困り果てた眞門を見かねた星斗が、「父ちゃん」と、横から口を挟んだ。

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