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謎の男③

「知未さんね、今、少し問題を抱えちゃっててさ・・・その・・・精神的な問題なんだ。それが解決するまで結婚は保留ってことにしてる」 「精神的な問題?」 「そう。Normal性の父ちゃんにはうまく説明できないんだけど、一言で言うと、精神的な問題」 「へぇー」 青司は冷ややかな目線で眞門を見つめた。 眞門はとても改まった態度を取ると、 「本当に申し訳ございませんっ!」 と、深く頭を下げた。 「本来なら、星斗さんのご両親にはもっと早く説明すべきことだったと思います。 私の父は星斗さんとの結婚にはおおむね賛成はしてくれています。 ただ、私に現在、星斗さんからお話があったように精神的な問題を抱えておりまして、この問題に何かしらの決着がつくまで、父が私の結婚にすぐに同意してくれるのは難しいかと思っています。 なんせ、真面目な父ですので。 籍を入れるとなりますと、私と星斗さんだけの問題ではありませんし。 ですので、もう少し、私の治療に専念するお時間を頂けると有難いのですが」 眞門は近況を手短に説明すると、青司の顔色を伺った。 「どれくらいですか?」 「へ?」 「どれくらい待てばよろしいんでしょうか?」 「どれくらいと言われましても・・・」 「うちの大事な息子をどれくらい待たせるか、あなた、断言が出来ないんですか?」 「はい・・・申し訳ありませんっっっ!!」 眞門は恐縮して、頭を下げるしかなかった。 煮え切らない眞門に業を煮やしたのか、 「・・・分かりました。私もこれから外せない仕事がありますので、今日はここまでにしておきます」 と、納得した様子はないものの、青司は一旦、話を終わらせる。 「最後に確認しておきますけど、星斗との結婚は前向きに考えていると受け取ってよろしいんですね?」 青司は眞門に念を押すように確かめる。 「はい、それは勿論ですっ!」 眞門はそこは力強く答えた。 青司は眞門のその態度に安堵したのか、 「分かりました」 と、すぐに引き下がった。 青司は席を立つと、「加奈子さんには元気にしてたって伝えておくよ」と、星斗に伝える。 「うん、ありがとう、父ちゃん」 「じゃあ、今日はこの辺で失礼します。星斗のことをよろしくお願いします」と、眞門に告げ、青司は去っていった。 青司がいなくなると、空いた席に星斗は着席する。 「あのさ」 「なんですか?」 「星斗のお父さんって、確か、タクシーの運転手って言ってなかったっけ?」 眞門は自分の記憶を蘇らせて、確認する。 「そうです」 「あの高級そうなスーツ、とてもそうは見えないんだけど・・・?」 「えーっと、確か・・・上流階級のお客様だけを特別に相手する特殊な運転手だって聞きました。 だから、それなに?って聞いたら、人に聞かれたら、タクシーの運転手だって言っておけって言われたんです」 「・・・そうなんだ」 青司の正体を知る眞門は心の中で愚痴った。 ・・・いや、全然違うだろうっ! 「上流階級の客って、自由気ままな行動を取る人がほとんどらしくって、それに付き合うとなると予定通りにいかなくなるって、母ちゃんによく愚痴ってます。 それで、家を空けてることが多いみたいで、母ちゃんも諦めてるんです」 「へえ・・・」 思わぬ形で、嘘で固められていた星斗の家族の姿を知った眞門は、更なる問題が増えたと心の中で頭を抱えた。

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