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またもや苦悩する眞門
数日が過ぎて。
眞門は親友で、ダイナミクス科の医師の寺西が昼休憩に入ると、有名店のカツサンドを手土産にして訪れた。
「誰か、夢だと言ってくれ!」
眞門はそう洩らすと、寺西のクリニック内にある応接室のソファに深くもたれかかった。
「残念だが、現実だ」
寺西は土産のカツサンドを頬張りながら、容赦なく告げる。
「あーーーっっっ、なら、どうしよう!? 俺、どうしよう!! てか、こんな偶然って起きるか!?」
「落ち着けよ。じたばたしたって、過去は変えられないだろう」
「無理だよっ! だって、青さんが星斗の父親で、星斗の父親は・・・性風俗店の幹部なんだぞ!!」
眞門は青司の正体をそう告げる。
「それより星斗クンは? ひとりにしておいていいのか?」
「星斗は今、俺の知り合いのヘアサロンにいる。どうしても髪を明るくしたいんだって。終わったら迎えに行く」
「そうか」
「俺たち、一緒にいるとあまり良くないんだよ。しちゃいけないと分かっても、一触即発でPlay始めてしまう危険性があるから・・・場所も関係なく・・・」
「相性良いもんな、お前ら」
眞門の不安定さの状況を知る寺西は同情を顔に浮かべた。
「そんなことより、今日、ここに訪ねてきたのは、星斗の父親の問題だよっ」
「大丈夫だろう? 向こうは上流階級お相手の高級風俗店勤務なんだろう? お前のプライバシーはきちんと守ってくれるって」
眞門から事前に事の経緯を軽く聞かされていた寺西。
が、眞門の相談はやはり、どこか他人事。
何よりも手土産のカツサンドに夢中だった。
眞門はソファを浅く座り直すと、姿勢を改めた。
「・・・お前さ」
「なんだよ?」
「お前がもしもだよ、ダイナミクス性者だとして、婚約者に、『あなたの父親とPlayをしたことがあります』って、打ち明けられたらどうよ?」
「はあーっ!?」
今まで興味を示さなかった寺西が、初めて、ここに来て興味を示す。
さすがに、カツサンドを口から放すと、
「・・・でも、まあ、ダイナミクス性の世界なら、ない話でもないか・・・」
と、すぐに冷静沈着に分析し、カツサンドにまたパクつく。
が、「・・・ん? ちょっと待った・・・」と、自分で出した結論に疑問を持つ。
「星斗クンのご両親って共にNormal性じゃなかったか・・・?
確か、星斗クン本人がそう言ってた気がする。
だから、長い間、自身の検査結果を信じて疑わなかったって・・・あれ・・・???
えっ、なに、星斗クンの父親はSubってことなのか?!」
「いいや」
「・・・いいや?」
「星斗のお父さんはSwitchなんだ」
「Switch!? そう言うことか・・・」
寺西は妙に納得した表情をする。
「Switch性はダイナミクス性の世界では常に嫌われ者の存在。
DomからもSubからも本気の相手にされる事はなく、最初から愛される対象にすらしてもらえない。
Playの道具にいいように利用されて、後は知らんぷりされる、呪われた性とも言われてるからな。
Switch性の人は本当の性別を隠して、偽りながら生きる人がほとんどだもんな」
寺西は納得した理由をそう説明した。
確かに、我が国では、Dom性とSub性を公にする著名人が続々と増えつつあるが、Switch性を公表した著名人はまだ誰一人としていなかった。
単に数が圧倒的に少ないと言う理由もあるが、Switch性はまだまだタブー視されてしまう性別でもあった。
「星斗の父親の職業は、上流階級だけを相手にする、こっちの世界では超が付くほど有名な性風俗店の幹部なんだ。
そのお店は紹介制で、俺も知り合いにその店を紹介してもらって、星斗と出会う前まではそこの顧客だったんだよ」
「あれ? なんか、またおかしくないか? なんで、お前が幹部とPlayするんだよ?」
「そのお店は、まず最初にマネージャーのカウンセリングを受けなきゃいけないんだよ。
趣味とか趣向とか、どうしてこの店を訪れようと思ったのか。
まあ、表向きはカウンセリングってことになってるけど、実際は客の情報収集だろうな。
裏の権力を握る為の。
で、そのカウンセリングから、マネージャーが責任を持って、相性の良いキャストを選んでくれたり、やってみたいシチュエーションなんかを用意してくれたり、場合によっては客同士のPlayまでも取り持ってくれたりするんだよ。
個人情報を漏らさないのは勿論のこと、満足度100%を保証してくれる。
金は湯水のように掛かるけど、ダイナミクス性を持つ者にとったら夢のような風俗店だよ。
で、その時の俺の担当マネージャーだったのが、星斗の父親の青 さんだったわけ」
寺西は「なるほど」と、頷くと、「で?」と、続けた。
「・・・で?」
「いや、だから、どうして、それで、星斗クンの父親とPlayすることになるんだって話だろう?」
「ああ、それはさ・・・」
眞門はPlay内容の恥ずかしさから、言いよどむ。
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