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苦悩するふたり

「本当にすまないっ!!」 眞門は目の前にいる星斗に深く頭を下げた。 星斗と眞門はラグジュアリーホテルの食事が取れるラウンジにいた。 眞門が目を覚ましたのは、星斗が起きてから二時間も経過した後で、昨日にした、朝食を一緒に食べる約束はブランチと言う形になってしまった。 「・・・ごめん。昨日は本当にごめんっ」 「もういいですよ。そんな何回も謝ってもらわなくて」 「でも、そういう訳には・・・」 眞門は表情を落とした。 眞門は目を覚ましてから、昨日のPlayでの自分の行為をずっと反省しているようで、星斗に対して、とても申し訳ない顔を浮かべていた。 「傷ついているだろう? 俺にあんな下品な言葉を言われて・・・でも、あれは決して、俺の本心じゃないからっ!! 星斗のこと、そんな風に見たこと一度もないからっ!」 眞門は猛省する昨日のPlayから、少しでも名誉挽回を図りたいのか、近くのカフェではなく、あえてラグジュアリーホテルのラウンジに星斗を連れてきて、心から詫びる気持ちを形にした。 「あの、本当にもう大丈夫ですから」 星斗はそう返答するだけで、本心は隠し通した。 「本当は罵られて悦んでました」 なんて言えるわけがないよっ! 「目が覚めて、気分がすこぶる良くて、元気100倍アンパンマン!な気持ちです」 なんて言えないよっ。 ・・・言えば、ただの変態になるじゃん。 ムリ!! 知未さんにだけは絶対に嫌われたくないもん。 「・・・本当にごめんね」 「あの、もう本当に気にしないでください」 眞門の申し訳なさそうな顔を星斗も申し訳ない顔をして見る。 ・・・というか、昨日、俺がしたことは全然気にしてないんだ。 人前でひとりPlay(オナニー)をしてしまった下品なSubってところはもう許してくれているんだ。 良かったー。 知未さんは下品なSubが嫌いだって、よく口にするから。 ずっと気にしてたんだよ。 ひたすら謝ってくれる眞門の態度に、嫌われていないことを知り、星斗はホっとした。 「・・・あのさ、控えるじゃなくて、Playはもう禁止にしよう」 「え!?」 Playの必要性を感じ始めていた星斗は思わず驚いてしまう。 「昨日の、あんな軽いPlayで、あそこまでいっちゃうなんてさ、ありえないよ・・・。俺、やっぱりどうかしてるよ・・・」 「・・・あの、軽いPlayってなんですか?」 「え? 星斗の首輪にリードをつけて、スーパー内を歩いたことだけど」 「ああ。あれって、軽いPlayなんですか?」 「え、そうじゃない?」 「あ、ごめんなさい。俺、あまり経験ないから、よく分かってなくて・・・」 いや、俺、あれで、ひとりPlay(オナニー)しちゃったんですけど!? あれで軽いPlayだったんですね!? ・・・俺、どれだけ溜まってたんだろう。 「でも、知未さん、ひとりのせいじゃないですから・・・」 先にひとりPlay(オナニー)した自分が一番の原因だろうと良心が痛む星斗は申し訳なくなって、眞門を慰める。 「いや、Playは全てDomの責任だよ」 眞門は神妙な顔をすると、 「もうひとつ、禁止にしないといけない理由が出来たんだ」 と、口にする。 「なんですか?」 「次、同じことをやったら、あの部屋を追い出される」 「へ?」 「さっき、マンションの管理会社から連絡があって、めちゃくちゃ怒られた。次したら、出て行ってもらいますって」 「!!」 星斗は一瞬にして、顔を真っ赤にする。 「・・・それって、俺の・・・の・・・責任ですよね!?」 「いや、違う。Playの責任はDomの俺だから」 「いや、でも・・・本当に誰かに聞かれてたんだ・・・どうしよう・・・」 苦情が来るぐらい、俺の声が響き渡ってたってことなんだ・・・。 その現実を知ると、星斗の胸がキュンと高鳴る。 すごく恥ずかしい。 けど、誰かに見られてたんだ。 誰かに聞かれてたんだ。 ・・・それが分かると興奮する。 星斗は今いるラウンジの様子を眺める。 ラウンジで食事を取る客たちは、どれもこれも高級ホテルに似つかわしい、上品な装いをした紳士淑女ばかりだ。 どうしよう・・・。 ここで、知未さんのことを困らせたら、どんなお仕置きされるんだろう・・・? また、良い子に躾けられて、メロメロにしてもらえるのかなー。 ここで、悪い子になったら、この場で知未さんに犯されたりして。 だと、嬉しいな。 そんなのをここにいる人たちが目撃したら、卒倒するだろうなー。 ・・・見せたいなー。 ここにいる上品な人達に。 だって、見たことないでしょ? 俺みたいな普通から外れたSubがお仕置きされる姿なんて・・・。 「・・・知未さん」 「ん?」 「首輪(カラー)を外してきていいですか?」 「え?」 「ずっと付けているせいか、肩が凝ったみたいで・・・トイレ行ってきます」 「ああ」 「すみませんっ」 星斗はそう言うと、急いで席から立って、トイレに向かった。

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