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青司の思惑

眞門が寺西のクリニックを後にすると、眞門のスマホが着信を知らせた。 相手はヘアカットが終わった星斗からだと思い込み、着信の相手名を確認する。 「!」 それは星斗ではなく、青司だった。 眞門は少し躊躇するが、将来、義理の父親になる青司を邪険に扱うことは出来ないと考え、通話に出る。 「はい」 『良かった。その声はミチさんですね。まだこの番号を利用されていたんですね』 「何かご用ですか?」 『よろしければ、ふたりきりでお話出来ませんか』 「どういったご用でしょうか?」 『息子の結婚などに全く興味がなかった私が、あなたの前に突然現れた理由を知りたくはありませんか?』 眞門は青司がわざと口にしたであろう言葉が気になる。 突然・・・? 理由・・・? 何か思惑があるってことか? 「それはどのような・・・?」 『私の考えを先に知っておいてもらった方がミチさんにとってはよろしいんではないかと』 「・・・分かりました」 『今からお会い出来ますか? なるべく早くお話しておきたいので』 「分かりました」 眞門が素直に聞き入れると、待ち合わせ場所が決まった。 眞門は愛車に乗り込むと、ヘアサロンにいる星斗にメッセージアプリを使って、【どうしても俺が対処しなきゃいけない急な仕事の用件が入った。迎えに行けなくなったので、申し訳ないが、ひとりで帰宅して欲しい】と、連絡し、青司が待つ場所へと愛車を発進させた。 青司に指定された高級シティホテルの正面玄関前に車を着けると、スーツ姿の青司が既にいて、眞門の到着を待っていたようだった。 青司は眞門の愛車を確認すると、駆け寄り、後部座席を指さす。 眞門はその指示に従い、後部座席のドアの鍵を開錠すると、青司が後部座席に乗り込んできた。 「どうも、ご足労をおかけします。今日は早くに仕事が終わりましたので」と、青司。 「ご自身のお車は放置しておいても良いんですか? 上流階級を相手にしている運転手をなさっているそうで」 眞門はこの前、だまし討ちをされたお返しとばかりに、皮肉を交えた。 「今日のお客様はご自分で運転手をお雇いですから。それに社用車には車載カメラがある以上、あそこで大切な話をするにはいきません」 淡々と答えた青司。 あまり効き目のない口撃だったようだ。 「どこに向かえば良いですか?」 「そうですね、もう少し行った先にあるショッピングモールの駐車場でどうですか」 「分かりました」 眞門はショッピングモールの駐車場に向かって、愛車を発進させた。 青司に言われた通り、車を進めると、近くにショッピングモールを見つけた。 その駐車場に入ると、人気のない階の駐車場を選び、そこに車を停めた。 眞門は停車させると、車のルームミラー越しに青司を見つめた。 「それで、俺に聞かせておきたい話って何ですか?」 青司に信用を置けない眞門は、早速、本題を切り出す。 「この前お会いした時に聞いた、ミチさんが抱えている問題って、具体的にどういったことなんですか?」 青司がどうしてそれを知りたいのだろう? 眞門は単純にそう思った。 「どうして、それをお聞きになりたいんですか?」 「それが結婚の障害になっているんでしょう?」 家族を何十年と裏切った生活をしているとはいえ、やはり、青さんも父親だ。 父親として息子の結婚の行方を心配するのは当然のことだろう。 眞門はそう思って、正直に話すことにした。 「よく分からないんです」 「と言うと?」 「気がつくと、Domに飲みこまれてる。そんな感じなんです。冷静でいられなくなるというか、気がつくと、星斗が望んでいないことをしてしまうことがあるんです。本当に黙っていてすみませんでした」 眞門は、青司の、子を思う親心に対し、申し訳なくなり謝罪を述べた。 「どうして、ミチさんが謝るんですか?」 「だって、知らなかったとはいえ、青さんは星斗の父親ですから。良い気はしていないはずです。本当にすみません。けど、心配はしないでください。星斗の身に悪いことが起きないよう出来るだけ注意を払ってますから。Playも今は禁止にしてますので」 「どうしてです?」 「・・・え?」 「それは星斗が相手だからですか?」 「へ?」 「あいつは下手くそでしょう、Play」 「・・・・・」 青司が何を言いたいのか、眞門は全く分からない。

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