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青司の思惑②

「あいつがPlayの相手だから、ミチさんがDomに飲みこまれるんですよ。 イラッとするんでしょうね。よくあることです。Playが下手な相手を相手にすると。 空気が読めないというか、ムードが作れないというか・・・。 あいつのリードが下手なんですよ。ニートなんだから当然です。全く、経験値がないクズSubのくせに、ミチさんなんかを相手にするから・・・」 「・・・・・」 眞門はポカンとした。 青司が何を口走っているのか? きちんと把握できないからだ。 「・・・分かりました。星斗を一旦、私が引き取ります。それでうちの系列店で働かせます。Domのお客の相手をしていたら、そのうち嫌でもうまくなると思います。ミチさんに喜んでもらえるくらいPlayを上達させてお返ししますので、ご安心してください」 「!」 眞門は慌てて、後部座席に向かって振り向く。 「何言ってるんですかっ!!」 眞門は声を荒げた。 「何って、うちの息子とミチさんには結婚してもらわないと困るからですよ」 「・・・へ?」 「破談なんかには絶対にさせませんよ」 「・・・・・」 そう強く宣言した青司の顔に、眞門は恐怖を感じる。 「安心してください、私はミチさんの味方です」 そう言うと、青司はニコッと微笑む。 眞門は、青司から底の知れない悪意を感じる。 「いいですか、星斗はNormal育ちなんですよっ、それが星斗の良いところ・・・」 「ええ、だから、うちで働かせるんですよっ」 眞門の言葉に被せて、青司はピシャリと言い切る。 眞門の反論は許さない、そんな意図を感じさせた。 「Playの経験が圧倒的にないあいつが悪いんです。ミチさんの手を煩わして本当に申し訳ありませんでした」 青司はもう何も心配ないという感じでニコッと微笑んで見せた。 眞門はその言動から、経営者の勘と経験で、すぐにこの話のおかしな方向性に気づく。 これは・・・交渉だ。 俺は、婚約者の父親と話しているんじゃない。 何らかの取引を持ちかけられているんだ。 青さんのことを婚約者の父という目線で話していたら、この交渉は俺の失敗に終わる。 青司の素性を素早くキャッチし、眞門もすぐに考えを改める。 「・・・あの、どうして俺とそんなに結婚させたいんですか?」 「決まってるじゃないですか。勿論、ミチさんと家族になりたいからですよ。まさか、あなたのお父様があの眞門拓未様だったなんて・・・っ!! 感激ですっ。 ミチさんが偽名をお使いになられていたので、全く気づけませんでしたっ」 「・・・・・」 青司が眞門のことを"ミチ"と呼ぶのはこれが理由だった。 眞門は、プライバシーの自己防衛には抜かりなかった。 「あの、出来損ないのバカ息子がとんでもないものを釣り上げた。 まさに海老で鯛を釣るとはこういうことですね」 ・・・イラっ! 出来損ない・・・? バカ息子・・・!? 星斗を侮辱され、怒りに火が点きそうになるが、怒りに飲まれれば、この交渉は失敗に終わる。 眞門は湧き上がるDom性の煽りを何とか押し込め、経営者の経験とDomのエリート校の教育の鍛錬で、なんとか冷静さを保てた。 「俺のことを調べたんですか?」 「ええ。加奈子さんから話を聞いて、すぐにあなたの身辺調査をしました。 驚きました。 まさか、あなたがあの眞門拓未様のご子息とは。 眞門拓未様と言えば、こちら(ダイナミクス性)の世界では圧倒的な権力を持つ偉大な"マスター"。 誰も逆らうことが許されない御方。 その"マスター"の親戚、いや家族ともなれば、私は今以上の権力を得ることが出来る。 どんな奴らだって、私の目の前で跪かせる」 青司の瞳が既にその権力を手にしたかのような喜びに震えている。 眞門はそれを見て、青司の思惑に気づく。 「それじゃあ、星斗の父親として俺たちのことを思って、ではなく、俺の父の(権力)が目的ってことですか?」 「ええ、当然じゃないですか。 だから、今日、お会いしてお話させて頂いたんです。 だって、ミチさんは勘違いしているでしょう?  私が星斗を心配して、様子を聞きに来たと。 違いますよ。 私は反対なんか全くしていません。むしろ、大賛成です。 その為なら、星斗をうちのお店で働かせても何の問題もありません」 「俺があるんですよっ! 俺が問題あるんですっ!! 星斗を汚して良いのは俺だけなんですっ! 絶対にそんなところで働かせるなんて認めませんからっ!!」 眞門はここは譲れないとばかりに声を荒げ、釘をさす。 しかし、青司は呆れたように首を左右に振った。

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