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青司の思惑③

「ミチさん、本気でおっしゃっているんですか?  そもそも、あんな出来損ないの色気も何もないSubのどこか良いんですか?  大体、あの拓未様がうちのSub(星斗)とあなたの結婚を許したなんて私は未だに信じられませんよ」 「はい?」 「本当に拓未様は結婚に賛成されたんですか? この前、トイレから戻った来た星斗が首輪を外してたんで、私は大いに焦りましたよ。 拓未様に反対されて破談になったから、ふたりともずっと暗い顔をしているんだって」 「どうして、うちの父親が反対しているなんて思うんですか?」 「だって・・・アレですよ?」 青司は星斗のことをアレ呼ばわりすると、鼻で笑った。 眞門はまたカチンと頭にくるが、「ダメだ、乗せられてはダメだ」、と言い聞かせる。 「拓未様は早々に離婚すると判断して、結婚をお許しになられたんじゃありませんか?」 「へ?」 「訳は言わなくても、ミチさんならこの意味が分かるでしょう?」 「・・・・・」 「あなたのDom性が暴走する理由は多分、それですよ」 「・・・・・」 そう言われても、眞門には思い当たる節はなかった。 「それで、どうすれば、一刻も早く、拓未様とお会いすることが叶うんですか?」 「だからそれは、この前も言った通り、俺の精神的な問題が片付けば・・・」 「じゃあ、やっぱり、星斗をうちの店で働かせるしかないってことですね」 「・・・・・」 プチン。 眞門のこめかみで鈍い音が鳴った。 抑えきれなくなった怒りに任せて、眞門は青司を思いっきり睨みつける。 この分からず屋がっ! こんな酷い父親がこの世に存在しているなんて!! 許せない。 そんな瞳で青司を睨み付ける。 「ミチさん、そんな目をなさるんですね。意外です。いつも冷静なあなたが・・・星斗がホントに羨ましい。Subに生まれてこれて。あなたみたいなDomに出会えて・・・本当に憎たらしい・・・っ!」 そう言って青司は負けずに眞門を睨み返す。 その瞳は、この世の全てに憎悪を持った、とても恐ろしい眼光に見えた。 「!」 眞門はその瞳にビクっ!と恐怖で震え、カッと上った熱が一気に冷め、冷静さを再び取り戻した。 「・・・分かりました。私も鬼ではありません。ミチさんの星斗を思う気持ちに免じて、猶予を与えて差し上げます」 青司はそう言うと、また飄々とした普段の様子を取り戻す。 「ミチさん」 青司は眞門にグイっと顔を近づける。 「そこまで言うなら、あなたの手で星斗を好きなだけ汚してみてくださいよ。親の私が了承したんです。遠慮は全くいりません。あいつを好きなだけ汚してください」 「でも、星斗はNormal育ちで、そういうのは・・・」 「ミチさん、何か勘違いしていませんか? あいつはSubですよ。汚されて悦ぶ人間です。それを汚さないって、あなた、それでもDomですか?」 「・・・・・」 眞門は反論出来なかった。 青司の言うことはまさに正論だからだ。 「そんなことしてると、いつか、大きなしっぺ返しが来ますよ。なぜなら、あいつはSubだから。ミチさん、あなたならその答えがすぐに分るでしょう?」 「・・・・・」 「もっと、自分の欲望を叶えてくれる主人を探す旅に出て、あいつはあなたを簡単に捨てますよ。 だって、それがSub(あいつら)の性質だから。 あなた、それが分かっているから、自分の本性をずっと抑え込んでいるんでしょう? 星斗の理想の王子様になったふりをして」 「・・・・・」 「だから、Domに飲まれるんですよ。欲求を抑えつけすぎて」 「・・・・・」 「だって、あなた、鬼Domじゃないですか?」 「・・・・・」 「私はあなたの本来の姿を唯一知ってる人間です」 「・・・・・」 「どれだけ良い主人に憧れても、あなたは所詮、非道なことがしたくてしたくてたまらないDomじゃないですか」 「・・・・・」 「いくら綺麗ごとを並べても、片思いしていたNormal性に告白できなかったのはそういう事でしょ? Normal性が相手なら、あなたの欲望には耐えきることが出来ないから」 「・・・・・」 「でも、星斗は大丈夫ですよ。Subですから、あなたの酷い要求に耐えれるどころか、悦びに変えられる人間です。良かったですね。結婚相手の父親がよき理解者で」 青司はそう言うと、ニヤっと笑った。 Domの意地か。 真っ当な反論が出来ない眞門は青司を思いっきり睨みつけることしか出来ない。 そんなことない! 俺を鬼Domだと勝手に決めつけるなっ! 俺が良い主人になれないんて勝手に決めつけるなっ! そんな瞳で睨み付けるのが精いっぱいだった。 青司はその瞳から眞門の反論が汲み取れたのか、「じゃあ、私の言っていることが正しいかどうか試してみてくださいよ」と、口にする。 「何を?」 「Dom性に飲みこまれる前に、星斗にやりたいって思ったことをやってみてください」 「・・・・・」 「その時、あなたは自分自身を見失うかどうか。そのままDomの本能に飲みこまれて、訳が分からなくなるか」 「・・・・・」 「それで、星斗の処遇を考えます。悪いのは星斗なのか、あなたなのか?」 「・・・・・」 「私の言うことを聞かずに、星斗のことを大切にした結果の選択、なんかしても無駄ですよ。この意味分かりますよね?」 「・・・・・」 「あなたが汚さなくても、星斗はどちらにしろ、うちの店で働かせることにしますから。だって、あなたに捨てられたら、あいつは職がないんですから。その才能がある以上、体で食べていくしかないでんですから、クズなSubはそう生きるしかないんですよ」 「・・・・・」 星斗を人質とした脅迫とも取れる青司の言い分に、眞門は青司の本気を知る。 「それじゃあ、一刻でも早く良い報告が来ることをお待ちしております。ミチ・・・いえ、知未さん」 青司はそう言うと、車から降りて行った。 車内に残る眞門は、また、とんでもない難題を抱えてしまったと思い、呆然とするしかなかった。

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