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己を知りうる者は・・・④

「違うだろう?」 「えっ・・・」 「自分で分かっているだろう? 鏡に映る星斗の顔はそんなことを言おうとしているかい?」 「・・・・・」 「本当はなんて言いたいか、気づいているだろう?」 「・・・ヤダ、言いたくない」 「どうして? 簡単だよ。『もっと。』って、その一言だよ」 「・・・・・」 「もっと。して欲しいでしょ?」 「・・・・・」 「自分から尻を突き出して、『ここをもっと虐めてください』って言いたいはずでしょ?」 「・・・・・」 「俺のSubなんだから」 「・・・・・」 「さあ、おねだりしてみせて。尻を突き出して、自分で広げて、『ここをもっと虐めてください』って」 「・・・・・」 「自分の求めている欲望をちゃんと口にしてみて」 「・・・・・」 星斗の両手がSub性に操られるように勝手に尻へと伸びていく。 ・・・イヤだ。 これって、俺に変態になれってことですか? こんなおねだりをしたら、俺のこと嫌いになるくせに。 ・・・嫌だ。 お願いだ、知未さん、俺のことをこれ以上、暴かないで。 知未さんだけにはだけは絶対に知られたくない、俺の本当の姿。 しかし、Subの欲望に飲まれかけている星斗の体は星斗の意志とは反して、尻に向かい、尻もさらに突き出す格好を取り始める。 イヤだ。 ・・・言いたくない。 言えば、認めてしまう。 俺はまだ認めたくない。 お願いです。 やらせるなら、命令して。 俺にそうしろって命令して。 俺は自ら、こんなことをしたくない。 命令なら、いくらでもする。 知未さんの好みのSubになる為なら、どんな恥ずかしいことだって出来る。 けど、俺が望んでいることを俺の意志でさせないで。 お願い。 俺はまだ認めたくない。 星斗の両手が左右の尻臀に手を掛けようとした瞬間、 「・・・ダメっ!」 と、星斗はSubの欲求をはねのける様に叫んだ。 「無理です・・・こんなの・・・っ」 星斗は振り向くと、眞門を見つめた。 その瞳には軽く涙が浮かんでいる。 「一体なんですか、このPlay? 俺はこんなPlay、したくないっ!!」 星斗は声を荒げて拒絶した。 「星斗・・・」 星斗がPlayを拒否したことに驚いたのか、眞門は若干、唖然とする。 「俺は知未さんのSubになる為のPlayがしたいっ! 俺を躾ける為のPlayだけをして欲しいっ! 知未さんが喜んでくれるSubになりたいっ! 俺の欲求なんかどうでもいいっ! 俺はこんなPlayは二度とやらないっ。俺を知未さん好みのSubに躾けてくれる気がないなら、二度とこんなPlayはしてこないでくださいっ!」 初めてと言っていい、眞門に対し反抗した態度を見せると、星斗は服を持って、すぐ傍にある浴室に逃げ込んだ。 星斗は浴室に逃げ込むと、足をガタガタと震わせた。 怒った興奮なのか、それとも歯向かった恐怖なのか、自分でも分からないが足がガタガタと震えて止まらない。 星斗に逃げられた眞門はとても悲しい現実を告げられたような顔へと変わっていた。 「星斗」 眞門はドアを挟んで声を掛ける。 「俺、今夜はホテルに泊まって来るよ。今日は俺ともう一緒に居たくないだろう」 眞門の声はいつもの優しい語り口。 それを聞いて、星斗はあることにすぐに気づく。 あれ? 怒ってない? どうして? Dom性が暴走しているはずなら、扉をバンバン叩いて、「開けなさいっ! 早く開けないとお仕置きするぞ!!」って、怒鳴るはずだ。 いや、俺が逃げ切る前に、GlareやCommandで俺の動きをすぐに止めたっていいはずだ。 なのに、何もしてこなかった。 ・・・やっぱり、今の知未さんは「誰」なんだろう? 「独りになって、きちんと頭を冷やしてくるよ。ごめんね、傷つけるようなことをして。ここにスマホは置いておくから。明日、気をつけて会いに行ってきなよ。何かあれば連絡ちょうだい。いつでも迎えに行くから。・・・ホント、ごめん」 眞門はそう言うと、ドア越しに軽く頭を下げた。 眞門は星斗から取り上げたスマホをドアの付近の床に置くと、そのまま部屋から出て行った。

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