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己を知りうる者は・・・⑤
星斗にはホテルに泊まると言って家を出た眞門だったが、真っ先に向かった先は、父の拓未がいる別宅だった。
突然、訪ねてきた眞門を不審に思いながらも拓未はリビングへと通す。
「・・・聞きたいことがあります」と、眞門。
「なんだ?」
「星斗との結婚を許したのは、俺達がすぐに別れると思ったからですか?」
「・・・・・」
拓未は何も応答しない。
少し間をおくと、「・・・どうして、それが聞きたいんだ?」と、逆に質問を返す。
「ある人に言われたんです。
父さん が俺と星斗の結婚を許したのは、すぐに別れるって判断したからじゃないかって。じゃないと、父さんの考えが理解できないって。
本当のところを教えてくれませんか?」
「どうしてそれを知りたいんだ?
お前たちの恋愛に私の意見など必要ないだろう?」
「否定してくれないって言うことは、その人の言っていることが正しいって事なんですね?」
「・・・・・」
何も答えない拓未の態度を見て、眞門はひどく落ち込む。
「・・・どうしてそれを、もっと早くに教えてくれなかったんですかっ!」
眞門は声を荒げ、苛立ちを爆発させた。
「・・・このままじゃ、俺たちはどっちにしろ別れることが決まってるってことじゃないですか・・・」
星斗がPlayを拒んだことで、眞門には、星斗との未来が良くない形で終わることが予想出来てしまったらしい。
「・・・じゃあ、聞くが、お前はいつまで、星斗クンをあの殻 に閉じ込めておくつもりでいた? いつまでこのままでいけると思ってた?」
「・・・・・」
眞門は答えられない。
「星斗クンはお前とおんなじだ。
Subを嫌っている。
Subを変態か化け物の類だと思い込んでいる。
でも、真実は違う。
Subは悦びに従順に生きる生き物だ。
それは決してNormal性では味わえない天からの贈り物の性だ。
それに気づいた時、星斗クンは必ずお前の元から去ることになる。
自分の、本当のSubの欲求を満たしてくれるDomを探しにな」
「・・・・・」
「しかし、お前がそう調教したんだろう?
星斗クンはお前に与えられる悦びがSubの悦びだと勘違いしてる。
お前がそう調教したんだろう!
だから、前に私はお前のことをそう叱りつけただろう!」
今度は拓未が眞門を怒鳴りつけた。
「・・・はい、すみません」
眞門は素直に謝ると、とても悔しそうな顔を浮かべた。
「そんなつもりじゃなかった・・・初めはそんなつもりじゃ・・・。
俺がNormalに憧れてるせいで、Normalな魅力を持つ星斗に惹かれて、最初はそれを羨ましく思って、閉じ込めたかっただけかもしれない。
けど、いつの間にか、誰にも触れて欲しくなくなって、俺だけを見ていて欲しくて・・・星斗がSubに目覚めないよう、Normal性でいるように躾けてた」
眞門はとても悔いている。
そんな表情に変わる。
「なあ、知未。信じないなら仕方ないが、私が結婚を許したのは、単純に星斗クンが良い子だからだ。お前のことをとても大切に思ってくれている。その他に理由なんてない。反対する理由はどこにもなかった。だから、父親として賛成したんだ。決して、マスターの立場で賛成したわけではない」
「父さん・・・」
「そこまでお前が分かっているなら、まだ、星斗クンにしてあげられることがたくさんあるだろう? 私はお前たちが別れるとは決して思ってない。だから、お前自身が未来を勝手に決めつけるな。星斗クンのSubを解放してやれるのはお前だけだ」
「・・・けど、手遅れかもしれません」
「何がだ?」
「星斗を汚そうとしたら、星斗がそれを望んでいなかった。
父さんが言った通り、あいつは、汚れることを恐れてる・・・」
眞門はそう答える。
そして、苦悩に満ちた顔を浮かべると、
「Subの悦びに触れることを怖がってる・・・俺がそう仕向けたばっかりに。
俺が星斗からSubの悦びを奪って、そう躾けたから。
俺があいつを汚してやらないと、とんでもない目に遭うっていうのに・・・。
けど、無理矢理には出来ない。
星斗が嫌がることを無理矢理になんて・・・それこそ、Domの欲望の暴走に飲まれていないと俺には出来ない・・・どうすれば・・・」
と、心にある葛藤までつい洩らしてしまう。
「・・・とんでもない目ってどんな目に遭うと言うんだ?」
医者として、マスターとして、他人の話の聞き役が多い経験からか、拓未はそれを聞き逃していなかった。
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