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山本さんはやっぱり良きSubの友人
翌日の夜を迎えると、星斗は山本に会いに家を出た。
Playを拒否したことから、家を出て行ってしまった眞門とはそれ以降、会話らしい会話をしていない。
初めての反抗だったので、何をどう対処して良いか分からないのが本音だった。
謝ってしまえば簡単だが、そうなれば自分が悪くなってしまうし、またあのようなPlayを求められた時、今度は拒否が出来なくなる。
だから、自分から謝ることは出来ない。
ここは、眞門から折れてもらうしかない。
そう思った。
言い過ぎた面もあるが、たとえ、Subの立場だとしても、今回は自分から折れるわけにはいかなかった。
星斗が出かけようとした時、一晩外泊をしていた眞門がちょうど家に戻ってきた。
その際に顔を合わすと、「気をつけて。何かあったら連絡してきてね。いってらっしゃい」と、眞門はいつもの優しい眞門の態度で送り出してくれた。
しかし、星斗はブスっとした顔を見せて家を出た。
星斗が希望した通り、先に眞門が折れてくれた。
それは嬉しかったが、やはり、なんて言えば良いか分からなくて、ブスっとした顔を見せるしかなかった。
眞門の顔をじっと見てしまうと、Subの性質が疼いて、「ごめんなさい」と甘え、「お尻をペンペンしてください」と、反抗したことにかこつけて、お仕置きしてもらおうとする欲求に駆られてしまいそうになったからだ。
自分の思惑とは関係なく、Subの欲求はこんな時にでも湧き上がってくるのか。
それを知ると星斗は自分の変態性に泣きたくなった。
眞門とは少しでも早く仲直りしたいし、しなくてはいけないとも思っている。
しかし、顔を合わせるとSubに飲みこまれて自分を見失いそうになるので、もう少し気持ちが落ち着けばうまく対処できるかもしれないと思い、今夜は予定通り、山本に会いに行くことにした。
少し早めに待ち合わせ場所に着くと、間もなくして、仕事帰りのスーツ姿の山本がやってきた。
星斗の姿を見つけると、山本はパッ!と驚いた顔を見せる。
山本は星斗に駆け寄ると、挨拶もなく、
「どうしたんだよ、その髪!?」
と、あか抜けた星斗の姿に戸惑いを見せた。
「あー、ちょっと気分を変えたくて・・・」
星斗は首輪 に合わせて、とは、気恥ずかしくて口には出来なかった。
「・・・ひょっとして、その首輪 に合わせてか?」
星斗がわざとらしく目立つように付ける首輪 を目ざとく確認すると、山本は鋭く聞いてくる。
「え?」
「めっちゃ良いじゃん。似合ってるよ」
「そうですか!?」
星斗は褒められてすぐに嬉しさを爆発させる。
「・・・うん、すごく良い。じゃあ、やっぱり、その髪型はそれに合わせて変えたんだ?」
「まあ・・・」
星斗は照れる。
「モテないNormalかよ」
「へ?」
「まあ、そういうダサさがお前の可愛いところだよな」
「・・・ん?」
「さあ、お祝いに焼き肉店を予約しておいたから。勿論、俺の奢り」
そう言うと、山本は上機嫌で歩き出した。
今のって、褒められた? 貶された? どっち?
星斗は悶々としながら、山本の後についていった。
※ ※
山本は予約しておいた焼き肉店に星斗を連れてくると、行きつけの店なのか、慣れた手つきで適当に注文し、慣れた手つきで運ばれてきた肉を網の上で焼き始める。
山本は肉を焼きながら、「どうした? なんか元気ないな? 折角、特上カルビを頼んでやったのに」と、昨日の出来事を引きずっている星斗の様子を気にかける。
「マリッジブルー?」
「・・・いえ」
「なんか、あったのか? 俺、今日はお前の嬉しそうな顔を見に来たのに」
「・・・・・」
星斗は素直に思った。
山本さんは本当に良い人だな。
人の幸せを一緒に喜ぼうだなんて
この人だけは何があっても絶対に幸せになって欲しい。
星斗は昨日のことを気にして暗い顔をしているのは、お祝いに誘ってくれた山本に申し訳ないと思い、悩んでいることを正直に打ち明けることにした。
「・・・あの、山本さんはSubに生まれてきたことを後悔していないんですか?」
「は?」
「だって・・・俺たち・・・いや・・・俺だけかもしれませんが、Subって変態・・・そのものじゃないですか?」
「変態?」
「はい」
「変態ならダメなの?」
「え?」
「俺はSubに生まれてきて、ラッキーとしか思ったことないけど」
「そうなんですか!? どこがですか?!」
Subとして同じように悩んでいるはずと思っていた山本の意外な回答に星斗は驚きの顔を隠せない。
「え、なんでそんな驚くの・・・?」
山本も山本で星斗の反応に驚く。
「だって・・・恥ずかしいことをされたいとかしたいとか・・・それで悦ぶって、変態そのものって感じじゃないですか・・・」
「フン、なんだ、そんなこと!?」
と、山本は鼻で笑うと、
「それはNormal性の考え方だな」と、一蹴する。
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