250 / 311

山本さんはやっぱり良きSubの友人③

いつまでも、ポカンとしている星斗の顔色を見て、 「お前、本当に分かんないの?」 と、山本は不思議そうな顔で尋ねる。 「はい」 山本は「マジか・・・」と、言いながら、不可解なのか軽く首を捻った。 「そのSubの人はな、俺にこう言ったんだよ。 特別なシチュエーションだと分かっているからこそ、私に特別なPlayを与えてくれたって。 私の好きなことを全て把握してくれているからこそ、こんな辱めを与えてくれたって。 このご主人様は、常に私がどうしたら幸せを感じるか、それを最優先に考えてくれているって。 それが知れて、とても嬉しかったって。 愛を感じたって。 そんなご主人様を持てた自分は幸せ者ですって。 瞳をキラキラさせて言ったんだよ。 なあ、羨ましいだろう? 俺もこんな風に俺の幸せを最優先に考えてくれるDomといつか出会えたらなーって羨んだの」 山本はそう説明すると、生ビールが入ったジョッキを口に運んだ。 山本は星斗を心配そうに見つめると、 「お前、本当に大丈夫か?」 と、尋ねる。 「何がですか?」 「だから、結婚するならちゃんと甘えておかないと。じゃないと、相手もお前に何をしてあげたら悦ぶか分からないだろう?」 「・・・それはそうですけど・・・」 ・・・けど、俺は与えてもらうだけで良い。 星斗はそう思った。 しかし、何か不安なものも感じてしまったのか、思わず手が首輪に触れる。 この首輪をもらってから、俺は少し欲張りになっているだけなんだ。 ずっと欲しかったものを与えてもらったから。 これ以上、俺に欲しいものなんてない。 星斗は自身に言い聞かせるように心の中で諭す。 「お前さ、首輪(カラー)を贈ってプロポーズするDomがどれだけ本気か分かってないだろう?」 「・・・え?」 「お前に逃げ場はもうないよ」 「逃げ場?」 「Domの一途さって、お前が想像している以上にヤバい領域だから。独占欲なんてものじゃないよ、あれ。執着・・・? いや、もう粘着の領域だな」 「粘着・・・!?」 「あの人達ってさ、恋愛が絡んでない時は同時に何人ものSubと主従関係を平気で結べるくせに、恋愛が絡んだ途端、一途になって、他が全く見えなくなるんだよ。もう、あれ、異常だから。Subから見たらホラーの世界だから」 「だからなんですか?」 「だから、隠したって無駄だぞって言ってやってんの。変態性を見せたところで、嫌いになってもくれないし、別れてもくれない。むしろ、Domはそれが喜びに変わる」 「喜び・・・?」 星斗は怪訝な顔をする。 「だって、あの人達、なんでも自分が全て、一番じゃないと気が済まないから。自分だけが知っている、自分が一番最初、そういうのが大好きな人達だから。ある意味、俺たちの天敵だよ。俺たちをいろんな色に汚すことに快感を覚える人達。俺たちが偽って着込んでいるうわべを何枚も何枚もはぎ取っていて、最後に残る下品な欲望だけを飲み込んで悦ぶんだ。Subの恥ずかしい秘密を知って喜ぶなんて本当に趣味が悪いだから」 そう口にした山本はの顔になぜか少しだけ影が落ちた気がした。 山本の過去に何か悲しいことでもあったのだろうか? 星斗はその表情を見て、そう思ってしまった。 「・・・あの、なんだか、俺を怖がらせようとしていません?」 「だって、お前はまだ知らないんだと思って。Domの本当の怖さ」 そう言うと、山本はニヤっと悪ぶった顔に変わる。 「お前もそのうち、オムツPlayを命じられるぞ。だって、したことないんだろう?」 「!」 想像もしてなかったことを言われ、星斗は面を食らう。 「Domは俺とが"初Play"が大好物だぞ」 「しませんよ、知未さんはそんな変態的なことっ! 知未さんはそういうDomじゃないんですっ!」 「お前がそう思い込んでるだけで、相手だって、本性を隠しているかもしれないだろう。お前が本性を隠しているように」 「・・・・・」 「Domに良い奴なんかいないよ。Domはみんな鬼だよ、鬼。だから、絶対に捕まったらいけないの」 また、山本の顔に影が落ちた気がした。 すこぶる性格の良い人代表みたいな山本にパートナーがいないのは何かしら理由があるのだろうと、この発言を聞いて星斗は悟った。 山本の知らない顔を見た気がして、なんだか悲しい気持ちになったので、それ以上はあえて質問しようとは思わなかった。 「俺はちゃんとアドバイスしてやったからな。意地を張って、後で甘えておけば良かったって後悔するなよ」 山本の知らなかった顔を知ると、山本のそのアドバイスがなぜか、急に重いものに感じられた。

ともだちにシェアしよう!