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いざ、温泉旅館へ!③

チェックインの手続きを済ませると、部屋へと案内してくれるベテラン仲居が現れ、その後を付いて歩くことになったふたり。 「ウェルカムドリンクが精力剤って、知未さんの冗談ですよね? そんなことありえないですよね!? いつもの意地悪ですよね!?」 「俺がいつ、そんな意地悪したよ?」 「いつもやるじゃないですかっ! 当然な顔をして子供みたいなくだらない意地悪ばっかり。女将さんと会話してた時みたいに、俺にも大人の対応をお願いしますよっ」 「星斗には無理だよ」 「なんで、そんなあっさり・・・っ」 「それより仲居さんの館内の決まりをきちんと聞いておいてよ。この旅館は色々と決まり事があるんだから」 ただのからかいだったのか、ウェルカムドリンクの真実は最後まで秘密にされたままだった。 案内の途中で、ベテラン仲居が一階にある大浴場の前で足を止めた。 「こちらが大浴場になります。手前からSub専用、Dom専用、そして、混浴専用となっております」 ベテラン仲居が指し示して説明した通り、入り口が並ぶようにして三つあり、手前の入り口には"Sub"と書かれたピンクの暖簾が、次に"Dom"と書かれたグリーンの暖簾、最後の入り口には"混浴"と書かれたパープルの暖簾が掛けられてある。 「こちらはどの大浴場も24時間入浴可能となっております。 そこでお客様にご注意頂きたいのが、当旅館の決まりといたしまして、Domの方がこちらのSub専用の大浴場に入られてしまった場合、いかなる理由がございましても、見つけ次第、即刻警察に連絡を差し上げる決まりとなっておりますので、ご入浴の際は暖簾の色をよくご確認して頂いてから、お気を付けてご入場くださいませ。 また、Subの方が、Dom専用の大浴場やひとりで混浴の大浴場に入られてしまった場合、いかなる理由がありましても自己責任とさせていただき、当旅館は責任を一切負いませんので、そちらもご了承くださいませ。 私たち従業員共も注意深く観察はしておりますが、Subの方が混浴の大浴場に入られる際は、なるべくパートナーのDomの方とご一緒に入られますことを強くお勧めいたします」 大浴場についての注意点を一気に説明され、きちんと理解出来なかった星斗は、ヒソヒソ声で眞門に尋ねる。 「どういうことですか?」 「星斗がSub専用以外の大浴場に間違ってひとりで入ったら、その場に居合わせたDomに輪姦される可能性があるってこと」 「!!!」 星斗はギョッと驚く。 「え、ここ、どんな危険な旅館なんですか!!」 「ここではそういう認識じゃないの。全て、Playで済まされるんだよ」 眞門は平然とした顔で答えた。 「Play!?」 「尚・・・」 ベテラン仲居がふたりの会話を遮るように話しかけてくる。 「本日はお客様も少ないことから、夜の10時を回りましたら、こちらの混浴の大浴場は貸し切り風呂としてお使いいただけます」 ベテラン仲居は混浴と書かれたパープルの暖簾の横にある、大きな木札を指さす。 「【現在、貸し切り中】と書かれた札をこちらに向けて頂きましたら、こちらの浴場は貸し切りとなりますので、ご入場はお避け下さいませ。貸し切りの使用についてでございますが、ご予約制ではなく、午後の10時を回りましたら、どなたのご利用もなければ、お好きに貸し切り風呂として使用していただいて構いませんので、その際には、こちらの木札をきちんと【貸し切り中】と分かる様にお向けくださいませ。入浴が終わりましたら、また、この木札を元のように裏に向けておいてくださいませ」 大浴場の説明が終わると、再び、ベテラン仲居に連れられ、階段を上り、2階の奥にある、今夜から宿泊する部屋、桃の間へとふたりは案内された。 館内を巡り、避難経路などの説明もされて分かったが、やはり外観の見た目通り、それほど大きな規模の旅館ではなく、建物の大きさも二階建てで、こじんまりとしていた。 正確に部屋数を数えたわけではないが、一日宿泊できるお客の数は多くても10組程度だろうと星斗にも簡単に想像できた。 眞門と女将の会話から宿泊する部屋は普通の客室だと聞いていたが、入ってみるとその通りで、何の変哲もない、10畳の広さがある和室ひとつのみで、床の間には桃の絵の掛け軸と生け花が飾られてあるだけだった。(※トイレや洗面所、浴室は完備されてあります) しかし、昔ながらの温泉宿の情緒だけは充分に味わえる雰囲気はあった。 日頃味わえない和の空間に浸る星斗は、温泉宿はやっぱりこうでなくてはと思い、特別室の豪華な内装を味わうよりも質素な普通の客室の方が、ある意味、非日常を楽しめて案外良かったかもしれない、と、前向きに思い直せた。 今夜は浴衣姿で・・・。 それだけでも普段では味わえない情緒だし、良しとしよう。 星斗はそう思うと気分が上向いてきた。 部屋まで案内をしてくれたベテラン仲居がお茶請けと抹茶の入った茶碗を持って、再び部屋にやってきた。 出発する際に眞門から不安になるようなことを言われたが、格式高い純和風旅館だと分かり、女将をはじめとする従業員の客に対する振る舞いなどを見てみても、「あれは知未さんのいつもの悪いからかいだったんだな」と、星斗は思い直していた。 あのお父様がプレゼントしてくださったお宿。 全くもってなんの問題のない、古き良き温泉宿じゃないか。 この旅館に足を踏み入れる前に抱えてしまった漠然とした不安は、星斗の中からはすっかりと消え去っていた。 正座をしたベテラン仲居が軽く一礼を済ますと、「では、もう一度改めまして。本日は当旅館にお越しくださり誠にありがどうございます。それでは簡単に残りのご説明をさせていただきます」と、口にする。

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