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いざ、温泉旅館へ!④

「フェイスタオルとバスタオルは、お部屋と大浴場にそれぞれご用意してありますので、どうぞお好きなだけご使用くださいませ。 後、ご夕食、ご朝食とも、先程案内させて頂きました通り、基本、一階にございますお食事処でのお食事とさせて頂いております。 何卒ご了承くださいませ。 それではご夕食のお時間をお聞きできればと思いますが、ご支度は何時にいたしましょうか?」 「すみませんが、今日の宿泊客は何組か教えていただけませんか?」 眞門が仲居の質問とは関係ないことを唐突に尋ねた。 しかし、仲居はイヤな顔一つ見せず、 「はい。お客様を合わせて4組でございます」 と、答える。 「そうですか。なら、他の方と少し時間をズラすことってお願い出来ますか?」 「勿論でございます。2組のお客様が6時半からで、もう一組のお客様は外でお食事をお済ましになられると伺っております。なので、早めでしたら6時、遅めなら7時でご用意出来ますが」 「それじゃあ、みなさんより遅めがいいので、7時からでお願い出来ますか」 「かしこまりました」 星斗はポカンとした。 眞門は何を気にしたのか。 一体、自分達の食事の時間と他の客の食事の時間にどんな関係があるというのか。 「それでは、館内着のご用意はどういたしましょうか?」 「作務衣はありますか?」 「ございます」 「じゃあ、私は作務衣をお願いします」 「かしこまりました。お色はどうしましょう?」 「緑でお願いします」 「かしこまりました」 「では、そちらのSubのお客様はどういたしましょうか?」と、仲居は星斗に向かって話しかける。 「俺は浴衣が良いです」 「かしこまりました。お色はどういたしましょうか?」 色が選べるのか? 星斗は何色から選べるのか尋ねようとしたところ、横から、「ピンクでお願いします」と、眞門が口を挟んだ。 「ピンク!?」 「かしこまりました」と、仲居。 「待ってくださいっ! 俺、ピンクだなんて・・・」 星斗は難色を示す。 「嫌ですよ、俺、ピンク色の浴衣なんて・・・」 と、星斗は更に不満を口にする。 「嫌だって言っても、ここでは星斗はピンクを着なきゃいけないの!」 眞門にしては珍しく強い目の口調でそう諭すと、仲居に向かって、 「彼、こういういった旅館は初めてなんですよ」 と、後付けで説明するように付け加えた。 「そうでございますか」 「なので、ピンクでお願いします」 「かしこまりました」 自分の意見が通らなかった星斗はふくれっ面を見せる。 「それでは、浴衣の帯のお色はどういたしましょう?」と、仲居。 「白でお願いします」 「白でございますか!?」 仲居はなぜか驚いた顔を見せる。 「ええ、彼、まだ俺しか知らないんですよ」 そう言うと、なぜか、ドヤッとした顔(=ドヤ顔)を眞門は仲居に見せつける。 「そうでございますか、大変失礼いたしました。白の帯を仰せつかったのは、ほとんどないものでしたので」 「そうですよね~」 と、またもや、なぜか、勝ち誇った顔を仲居に見せる眞門。 「それではふんどしのご用意はどういたしますか?」 ふんどし!? 星斗は耳慣れない言葉に「なんだ???」と思う。 「それは結構です」 「承知いたしました。それでは今すぐご用意いたします」 仲居はそう言うと、部屋を出て行った。 星斗はピンクの浴衣をオーダーされたことが余程気に入らないのか、ブスっとしたふくれっ面を眞門にわざと見せつける。 苦笑いを浮かべると、眞門は「Come(来て)」と、Commandを告げる。 星斗はふくれっ面のまま、眞門の側に来る。 「なんですか?」 「いいかい、この旅館では俺の言いつけをきちんと守ってくれないと酷い目に遭うかもしれないから、良い子にしてくれないなら容赦なくお仕置きするよ」 「!」 星斗はドキッとした。 「・・・はい」 素直に従う星斗。 「よし、お利口だ」 眞門は優しく微笑む。 青司の指摘が事実ならば、試す必要があると考える眞門は、星斗に対し、ありのまま、あまりDomの欲求を抑えつけないように心掛けていた。 しかし、星斗は、最近始まった眞門のその行為に戸惑いを隠しきれなかった。 最近の知未さんはまたおかしなことになってるみたいだ。 症状が酷くなってるってことなのかな・・・? 今まで知らなかったDomの圧をすぐに出してくる。 優しいのに怖い、不思議な圧だ。 俺はこの圧がすごく苦手だ。 この圧に纏わりつかれると、・・・逃げ出したくなる・・・なのに逃げられない。 居心地が良いのか悪いのかよく分からなくなって、最終的には、"本当の自分"を引っ張り出されてしまう気がする。 だから、すぐに従ってしまう。 "本当の自分"を引っ張り出される前に。 「失礼いたします」 先程、部屋を出て行ったベテラン仲居が、今度は浴衣盆を持って、また戻ってきた。 「こちらに館内着をご用意させて頂きました。それでは何かございましたら、ご遠慮なく、いつでもご用命をお伝えくださいませ」 深々と挨拶すると、仲居は最後にそう告げて、部屋を出て行った。

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