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いざ、温泉旅館へ!⑤

仲居がいなくなると、星斗は、窓際の横にある、椅子と小さなテーブルが置かれたスペース(=広縁)にやって来て、レースのカーテンを開けた。 窓の向こうには、チェックインの受付の際に観賞した和風造りの立派な中庭が伺える。 どこから見ても、お父様が選んだお宿って感じだよな。 "古き良き伝統"の良さってものが俺にはまだ全然分からないけど、お父様はこういう"古き良き伝統"の良さを評価して、この宿の宿泊をプレゼントしてくれたってことなんだろうな。 でも、俺は歴史は全然浅くて良いから、ピンクの浴衣なんて着なくていいところに泊まりに来たかったなー。 後、部屋に露天風呂がついてあるところ。 そしたら、知未さんと・・・露天でずっとイチャイチャで・・・き・・・る・・・!? 「!」 何気に目線が下に落ちた途端、開けたレースのカーテンを星斗は慌てて閉める。 「知未さんっ、知未さんっ!」 そして、焦って眞門の名を呼ぶ。 お茶請けの菓子と抹茶をのんびり食して寛ぐ眞門は「どうした?」と、呑気な様子で答える。 「来てくださいっ、早く来てくださいっ! 俺、見ちゃいけないものを見たかもしれない・・・っ」 星斗の慌てっぷりに、眞門は菓子を途中で口から放り出すと、星斗の元に急いで駆けつけてやる。 「そっと開けて、見てください」 星斗にそう指示され、眞門はレースのカーテンの端から覗くように下へ目線をやる。 「・・・あーっ、なんだ、ただのPlayじゃないか」 「Playって!? ちゃんと見ました? 石の灯篭みたいなのに、裸の女性が紐でグルグル巻きに括りつけられて、鞭でビシバシと叩かれてているんですよ・・・っ! あれ、どうみてもなにかの拷問ですよね!? マフィア映画によくある拷問シーンですよっ!」 「どう見たって、違うよっ。良く考えなよ。あんな堂々と旅館の中庭で拷問してたら、誰かに通報されて終わりでしょ」 「あ・・・」 それもそうか・・・。 自分の勘違いかもしれない、と、すぐに納得する星斗。 「この旅館は、館内なら、どこでPlayを楽しんでても怒られないんだよ」 「はい!?」 「だから、さっき注意しただろう。俺の言うことに従わないと酷い目に遭うって。大浴場を間違って入ったら、Domに輪姦されるって」 「ここ、どんな旅館なんですかっ!? 古き良き伝統と格式がある旅館じゃないんですか?!」 「え・・・? そんなこと、俺、一言も言ってないけど」 「! ・・・確かに!!!」 星斗は妙に納得した。 確かに、知未さんからそんな説明ひとつも受けてない・・・。 館内の情景から俺が勝手にそう思い込んでただけだった・・・っ!! 星斗は自分の頭の悪さに思わず悶絶した。 「でも、ここはDomSubカップルしか宿泊できない宿なのは確かなんだから楽しもう」 眞門はそう言うと、瞳をサーモンピンクに輝かせて、Glareを発動させる。 「Look(見つめて)」 星斗は命令に従う。 「星斗はここでどんなことしたい? Say(教えて)」 「・・・俺は・・・知未さんと・・・ふたりきりで温泉にでも入って、イチャイチャできたらなーとしか考えてなかったです・・・」 星斗はCommandに従って、胸の内にあったもの正直に答えてしまう。 「そっか。それが出来ない温泉宿に連れてきてごめんね。じゃあ、今度はNormal性が行く普通の温泉旅館に必ず連れて行ってあげるから、今回はここで楽しんでよ」 眞門は星斗の機嫌を取る様に、星斗の頭を優しく撫でる。 「絶対ですよ」 「ああ」 眞門の瞳の色が元に戻る。 「じゃあ、俺、温泉にでも入って、気分を変えてきます」 「間違わないでよ。Sub用だよ」 「はい」 星斗はそういうと、仲居が持ってきた浴衣を確認する。 「!!!!!」 星斗は手に取って、すぐに驚く。 「知未さん、この浴衣、スケスケですっ!」 星斗が試しに手を通すと、手の肌が透けて見える。 仲居が用意した浴衣の生地はシースルーの生地で作られていた。 「こんなの、どうやって着るんですか! 裸で着たら、全部丸見えじゃないですか!」 「だって、それがSubの館内着だもん。こういう旅館では決まりだもん」 「嘘でしょっ!」 星斗は眞門が着る作務衣も慌てて確かめる。 至って普通の作務衣だった。 「なんで、知未さんのは透けてないんですか!?」 「いや、だって、Domは裸を見られてもなにも興奮しないもん」 「俺もですよっ! 俺も誰にいくら見られても興奮しませんっ!」 「俺がする」 「へ?」 「恥ずかしいって顔をしている星斗を見たら、俺が興奮するよ」 「・・・・・」 星斗は思わず呆ける。 だから・・・なに? 「星斗は男の子だからさ、このDomの気持ちは分かってくれるよね?」 「・・・まあ・・・分からなくはないですけど・・・って、そういう問題じゃ・・・っ」 「着て欲しいな~。星斗の恥ずかしがる姿が見たいな~」 「・・・本気で言ってます?」 「ねえ、折角の初旅行なんだから俺のことを喜ばせてよ」 「マジか・・・」

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