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食事処へ②

食事処に着くと、若い女性の仲居が出迎える。 「桃の間の者です」と、伝える眞門。 「お待ちしておりました」 と、若い女の仲居は一礼すると、 「本日はテーブル席がよろしいですか? それとも和室がよろしいですか?」 と、尋ねてきた。 「そうだな。・・・じゃあ、テーブル席でお願いします」 「かしこまりました。では、こちらへ」 眞門が星斗の手を引き、若い女の仲居の後をついて歩く。 この宿の建物の規模と食事処の入り口の大きさから判断して、食事処もさほど広くないのだろうと想像していた星斗だったが、実際に中へ入ってみると、とても贅沢な間取りで作られていて驚いた。 どうやら、宿泊棟とは別の棟に食事処専用の棟が存在していたようだ。 分厚い仕切りで区切られたテーブル席が六席、連なるように配置されていて、全て半個室のような空間となっている。 テーブル席の広さは大人四人が向かい合う様に座ってもまだまだ余裕が余るほどの贅沢な広さがあった。 テーブル席の連結が終わった真向かいに和室が二室作られており、 ふすまがあけっぱなしなので、広さを目視すると、テーブル席と同等、またそれ以上の広さに感じられた。 若い女の仲居に連れられた星斗と眞門は、一番奥のテーブル席へと案内される。 テーブル席が連なる様式なので、案内される途中に食事中の宿泊客のテーブル席の前をどうしても横切る必要がある。 自ずと、他の宿泊客のテーブル席の様子がどんなものか垣間見れてしまう。 「えっ・・・?」 一つ目のテーブル席の前を通り過ぎようとした時、大浴場で遭遇した若い女のSubが床に正座をしたまま、Domの女が食べ終わるのをじっと我慢して待つ姿が星斗の目に入る。 まるで、"犬のしつけ"でもしているかのように星斗には思える。 あのDomの女性は酷くない・・・? 折角の温泉旅行なのに、仲良く楽しく食べればいいじゃん 次に一つ空いて、三番目のテーブル席の前を通り過ぎた時、中庭にある石の灯篭で縛られて鞭で叩かれていた女のSubが、今度は亀甲縛りで体の自由を奪われた状態でテーブルの上に腰を掛け、Domの男に食事を与えられていた。 辛子明太子らしきものを素手で掴んだDomの男が、首を振って嫌がる素振りを見せるSubの女の口に無理やり放り込む。 Subの女の顔が歪むと、また、次から次へと辛子明太子らしきものをDomの男がSubの女の口の中に放り込んでいく。 どうやら、Subの女の苦手な食材をDomの男が無理やり口の中に放り込むというPlayを楽しんでいるようだ。 Subの女とDomの男は見つめ合うと、互いに性の悦びに震えた顔を見せ、熱烈な口づけを始めた。 「!」 へ・・・?! 今のどこに悦びがあるって言うの!? 嘘でしょ?! 今の何が楽しいの?! ・・・イヤだ、俺は、やっぱり・・・っ。 星斗は二組の宿泊客のPlayを覗き見して思った。 やっぱりまともじゃないよ、この旅館。 変態が集まる場所だ、ここはっ。 ・・・俺には無理だ。 俺は変態じゃないしっ! これ以上、ここにいるなんて無理だっ! 星斗の全身に普通でありたいという心情が溢れまくる。 星斗は思わずギュッと眞門の手を強く握った。 「・・・今すぐ帰りたい」 「へ?」 「今すぐ、連れて帰ってくださいっ!」 「ダメだよ」 眞門にしては珍しくきつめの口調で諭す。 「・・・・・」 「ここではそんなわがままは許さない」 「・・・・・」 「俺のことを信じて。ねえ」 諭す眞門の瞳を見て、星斗は気づく。 知未さんは、俺にこの光景を見せたくて、夕食を取る時間を遅めに頼んだんだ。 俺たちは普通じゃないってことを俺に分からせる為に。 「はい」 眞門の真意を勝手に解釈して、星斗は受け入れるように頷いた。

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