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食事処へ③

「こちらでお願いします」 若い女の仲居が案内したテーブル席にやって来たふたり。 あれ・・・? 椅子が一脚しか用意されていないことに星斗は気づく。 眞門が当たり前のように、その椅子に先に座った。 「あの・・・」 星斗が若い女の仲居に椅子について尋ねようとしたところ、「ここにおいで」と、眞門が大股を開いて、自分の右太ももを軽く叩く。 「え?」 「Subの椅子は初めから用意されてないんだよ」 「え・・・」 「ここでの食事は全てDomが主導なんだ。ここではSubはDomに従うことしか許されていない」 「・・・・・」 「嫌かい? 俺に従うの?」 「・・・・・」 「だから、ここにおいでって言ってるだ。ここに座るの、嫌じゃないだろう」 「・・・・・」 「Come(おいで)」 星斗はCommandに突き動かされて、眞門の右ひざの上に大人しく座る。 「でも、重いんじゃ・・・」 落ちないように、星斗が眞門の肩に両手を回すと、「全然」と言って、眞門は右手を星斗の腰に回して支えてやる。 見つめ合うふたり。 「いいかい、星斗。今夜は(ご主人様)がここでは絶対だ。いいね?」 「・・・それじゃあ、知未さんも俺にあういうことを今からするってことなんですか?」 「したくないって言えば嘘になるよ。虐めると星斗はすごく可愛い顔してくれるから。けど、星斗がイヤな思いするようなことは絶対にしない。それはDomの俺にとっても気持ち良くないことだから。だから、俺を信じて」 「本当に?」 「ああ、勿論」 やっぱり、俺のご主人様は優しい。 眞門を信じようと心に決め、星斗の不安な気持ちが少し解れると、求め合う様に唇が近づき、ふたりは口づけを熱く始めてしまう。 その間、若い女の仲居は無表情のまま、ふたりの口づけが終わるのを仕事だと言わんばかりにじっと待った。 ふたりが口づけを終えると、「申し訳ありません、お飲み物を先にお聞きしてもよろしいでしょうか」と、若い女の仲居は何にもなかったように注文をとる。 「すみません、お待たせして・・・」と、眞門は恐縮してみせると、「じゃあ、名物の地酒をお願いします。星斗は? 星斗も何か頼みなさい」と、Domの権限として、星斗に飲み物を注文するよう許可を出す。 「じゃあ・・・俺はウーロン茶で」 「いいのかい? アルコールじゃなくて」 「今夜は酔っぱらってしまうのが怖いんで・・・」 「そう。じゃあ、それでお願いします」 「かしこまりました。それでは、今夜のお料理は当旅館お任せの会席料理と伺っております。既にすべてのお料理をひと肌まで冷ましてあります。なので、デザート以外の全てのお料理を先にお運びすることも出来ますが、どうなさいますか? こちらの判断で適当に順を追ってお料理をお運びすることも出来ますか」 「いえ、ご面倒をお掛けすると申し訳ないので、先に料理を全て運んでください」 「承知しました。それでは私どものことはお気になさらず、料理(Play)の席をお楽しみくださいませ」 若い女の仲居は軽く頭を下げると厨房へと去っていた。 「私どものことはお気になさらず料理(Play)の席をお楽しみくださいだって」 そう言うと、眞門は冗談ぽく笑った。 しかし、星斗は顔を強張らしたまま。 「どうしたの?」 「料理(Play)の席って、これから、ここで俺たちはPlayを始めるってことですか?」 「別に構わないよ、星斗がしたくないって言うんなら。普通に食事しよう。椅子も俺がお願いすれば用意してもらえるから」 「・・・・・」 「だから、星斗がきちんとしたいこととしたくないことを教えてくれると助かるんだけど」 「・・・俺は・・・」 「何がしたい? Say(おしえて)」 「・・・俺は・・・知未さんの、ご主人様のしたいことに従います・・・」 「それでいいの?」 星斗は戸惑いながらも、「はい・・・」と言って、ゆっくりと頷く。 「じゃあ、今夜は俺が試してみたかったことをさせてもらうね」

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