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食事処でのPlay
テーブルにコース料理の全てが並べられると、眞門はテーブルの上に腰を掛けるように星斗に命じた。
行儀が悪いと戸惑うが、「ここではそれが許される」と、眞門に諭され、ご主人様の命令に沿う形で、星斗はテーブルの上に腰を軽く掛けた。
眞門は椅子から立ち上がると、
「俺の言うことを素直に聞き入れてくれたから、今夜は星斗を甘やかせてあげたい気分なんだ」
ご機嫌な素振りでそう言うと、色鮮やかな野菜が詰まった煮凝りを素手で摘まみ取った。
「だから、俺が食べさせてあげるね。・・・あーん」
眞門は指で摘まんだ煮凝りを星斗の口元へと運んだ。
驚いたことに、この旅館では提供される料理以外のもの、例えば、箸やスプーンにコップなどの類もDomからの指示がない限り、仲居からSubに提供されることはなかった。
Subの人権を奪った行為にも思えるが、これはPlayを楽しむための趣向のひとつで、Subが料理を楽しむには、Domに全て請う必要がある、そんな状況下をPlayを楽しむ為に作り出されていた。
「はい、次。あーん」
眞門に優しく促され、星斗が口を大きく開ける。
今度は、ステーキ肉の一片が眞門の手に摘まれて、星斗の口内へと運ばれる。
星斗が肉を飲みこむまで待つと、
「・・・ほら、ソースが垂れてるよ。指も手も舐めて綺麗にして」
と、眞門は命令し、ソースと肉汁まみれになった自身の右手を星斗に向ける。
星斗は命じられた通り、舌を使って、一所懸命にそれらを舐めて、眞門の右手を綺麗にする。
眞門は星斗のその動作を官能的な目で眺めた。
「good boy 。じゃあ、次はこれ・・・」
眞門はサラダの添え物にあったプチトマトを指で摘まんだ。
「俺、一度、こうやって星斗の世話を焼いてみたかったんだよ」
眞門はそう言いながら、星斗の口の中にプチトマトを運んだ。
「星斗はどう? こういうのは嫌い?」
星斗はミニトマトを飲み込むと、「・・・嫌いでは・・・ないです」と、どこか歯切れ悪く答えた。
「でも、全然嬉しそうじゃないね」
「・・・そういうわけじゃ・・・多分、慣れてないだけで」
弱々しく言うと、星斗は周りの視線を気にした。
他の席の配膳も終わって仕事がないのか、食事処での業務に当たっているはずの仲居たちは手を休め、あちらこちらで突っ立ったまま、客たちのPlayの様子をずっと凝視している。
その数はざっと数えても10人近くも居て、その場にいる客よりも多かった。
その仲居たちの目にはどことなく冷視が込められていて、星斗にとって、あまり心地の良いものではなかった。
イヤだ。
あの冷ややかな瞳。
Domに酷い目に遭わされた、昔のあの夜をなぜか思い出す。
バカなSubだと見下されて受けた酷い仕打ち。
知未さんに助けられてなかったら、どうなっていたか分からない、思い出したくもないあの夏の夜の出来事。
「嬉しくないの?」
「え?」
「星斗は見られるのが好きでしょ?」
戸惑いを隠しきれない星斗の様子に気がついていたのか、眞門はそう尋ねてきた。
「あれも仲居さんたちのお仕事」
「え?」
「わざと見てるの。Playのオプション。気に入らない? でも、この前、スーパーに買い物に行った時には、リードを装着された姿を知らない人たちに見られて喜んでたじゃない?」
「あれは、知未さんのSubだって思われていることに興奮しただけで、見られて嬉しいだなんて思ったことは一度もないです」
「そうか・・・。じゃあ、こういう甘やかされているところを見られてもあまり嬉しくはないのか、残念・・・」
「残念って・・・知未さんは、俺のことを甘やかしたいんですか?」
だとしたら、期待に応えられていない。
そう思った星斗は、眞門の言葉が不安になった。
「いいや」
「え?」
「それで悦びを感じてくれたら、楽だったのになってだけ」
眞門はそう言うと、意味ありげに笑みを浮かべる。
「欲するだけ与えて、それでぶくぶくと果てなく肥えさせて、一歩も動けなくして、部屋から出れなくするの。合法的監禁。そうすれば簡単でしょ? 俺が居ないと生きていけなくするの」
眞門の瞳に狂気が浮かんだ。
「!」
星斗が怯えた表情を見せると、眞門は一気に破顔して、いつもの悪ふざけをする顔を見せて、ニタッとした。
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