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拓未の疑念

翌日の朝を迎え、心地よく自然と目を覚ました眞門は、時刻を確認した。 ちょうど、朝食の時間を迎えていたので、隣でぐっすり眠る星斗に声を掛け起こした。 しかし、昨晩のPlayで相当体力を消耗したのか、星斗は朝食を拒否すると、また布団の中に潜り込んでしまった。 無理やり朝食に付き合わすのも可哀相だと感じた眞門は、ひとりで食事処へ行き、簡単に朝食を済ますと、中庭へとやってきた。 周囲に誰の姿もいないことを確認すると、スマホを取り出し、父の拓未のスマホへと電話を掛ける。 拓未に通話が繋がると、「おはようございますっ」と、眞門はとても晴れ晴れとした活気のある声であいさつをした。 「うまく出来ましたっ。昨日、Domの欲望に飲まれることなく、久しぶりに最後までPlayを楽しめることが出来ました」 眞門は嬉しさを滲ませて、拓未にそう報告する。 「Domの欲求を溜め込まずに小刻みに解消していけば、これからも大丈夫だと思います」 『そうか・・・』 しかし、拓未の返事はどこか素っ気ない。 「もっと喜んでくれないですか?」 『なら、今後は上手くコントロールが出来そうなのか?』 「はい」 眞門は迷いなく返事した。 『そうか。じゃあ、いらぬ心配か・・・』 「え・・・?」 拓未が洩れる様に口にした言葉を眞門は不審がる。 『明日、帰ってくるのだろう?』 「そのつもりです」 『それじゃあ、帰る途中で構わないので、うちに寄ってくれないか。大切な話があるんだ。顔を見て伝えたい』 「分かりました・・・。それって、この通話じゃ話せないってことですか?」 『ああ』 その返事で、良い話ではないのだろうと、すぐに察した眞門だが、星斗との初めての旅行中の、しかもDomのコントロールが上手く出来かけてる中で、そういった類の悪い話は耳にしたくないと思い、それ以上のことは敢えて尋ねようとはしなかった。 「それで、星斗の父親についてのことなんですが・・・」 『ふぇぇぇっ!?』 拓未にしては珍しく妙に驚いた声を上げた。 「どうかしましたか?」 『いや、なんでも・・・』 拓未はすぐに落ち着いた声を取り戻すと、『あの件なら、私に全て任せておきなさい』と、続けた。 「いえ、手を引いてもらえませんか?」 『へ?』 「この調子なら、俺ひとりで対処できると思うんです。このままいくと、青さんは義理の父親にもなるわけですし。今、父さんにこんな嬉しい報告が出来ているのも、ある意味、青さんの毒のあるアドバイスのお陰だと感謝してるんです。だから、これからは仲良くやっていけたらと思っているんです」 『そ、そうか・・・』 親子だから分かってしまうのか、通話口からでも、どこか狼狽えているような拓未の様子が伝わってくる。 「父さん・・・、大丈夫ですよね・・・? 手を引いてくれますよね・・・?」 イヤな予感がする眞門は確認を求めるように尋ねる。 『・・・え? あ、うん、分かった、・・・今すぐ手を引けば良いんだろう・・・っ。お前の言う通りにすれば良いんだろう? するよ、してやるよ』 拓未にしては、歯切れの悪い返事。 「父さん、本当に大丈夫なんですよね?」 『ああ、心配するな。まだ大丈夫だろう』 「! ちょっと、"まだ"ってどういう意味ですかーっ?! まさか・・・!? 青さんを監禁部屋に連れ込んで、調教とかしてるわけじゃないですよねっ! 青さんは星斗の父親ですよっ!」 『悪いが、私も忙しいんだ。じゃあ、最後まで楽しんでな』 拓未はそう告げると、一方的に通話を切った。 「あ、ちょっと・・・! 父さんっ!!」 一方的に通話を切られたことで、拓未が詰問されることから逃げ出したのだとすぐに眞門は察した。 良い父親ではあるが、普通じゃない父親。 また、とんでもないことをしでかしていなければ良いが・・・? そう想像すると、悪い予感しかしない眞門だった。 ※ ※ 眞門と拓未の通話が終わった直後、艶々旅館の帳場にある固定電話の呼び出し音が鳴り響いた。 その場に居合わせた女将が受話器を取る。 「お電話ありがとうございます。艶々旅館でございます・・・。ああ、拓未様。この度はご利用いただき誠にありがとうございます・・・」 電話を掛けてきた相手は拓未だった。 「はい、頼まれごとでごさいますか? なんなりとおっしゃってください。・・・はい・・・はい・・・はい・・・、え? お相手のSubの方をですか? はい・・・はい・・・うちのDomの従業員を使ってございますか・・・誘惑させるんでございますか!? ・・・そんなこと・・・!? はい、はい、それで、知未様のご様子を・・・? どう反応されるかを監視するんでございますか?!」 眞門から嬉しい報告を受け取った拓未だったが、それと同時にある疑念が浮かんでいた。 その疑念をどうしても晴らしておきたい拓未は、顔なじみの女将に従業員のDomを使って、星斗を誘惑するように願い出た。 拓未に恩義がある女将は、詳しい事情はあえて聞かず、拓未の願いを素直に引き受けることにした。

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