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揺れる気持ち
朝食を拒否し、二度寝した星斗が再び目を覚ますと、昼を迎えようとしていた。
ようやく体力を取り戻したと実感できた星斗だったが、昨日の夕食も今日の朝食も満足に食べていないので、腹をかなり空かせていた。
それを眞門に伝えると、ふたりで昼食を取りがてら温泉街の探索に出かけよう、ということになった。
山に囲まれた自然あふれた街並みを歩き、縁結びにご利益があるとされる神社を参拝すると、眞門との永遠に結ばれることをお祈りした。
カフェに向かうと、地元の食材で作ったランチを食し、その後は温泉の熱で蒸したスイーツななどを食べ歩きをしながら温泉街ならではのデートを楽しんだ。
至ってよくある、Normal性の恋人同士が過ごすような時間だった。
温泉街から宿に戻ってくると、汗ばんだ体をすぐに洗い流そうと、星斗はSub専用の大浴場へと直行した。
誰もいない露天風呂に浸りながら、秋に移行している季節のさなか、まだ青々と残る山の緑をぼんやりと眺めた。
すごく楽しかったなー、普通のデートみたいで。
ずっと、わいわい、ニコニコしてて。
俺、ずっと、こんなデートがしたかったんだよ。
いつかこんなデートが出来る相手と出会いたいって思ってんだよ。
同じものを見て、同じものを食べて、好きな人と同じように感じるだけで、こんなに楽しいって思えるデート。
・・・ホント、自分が普通に思えた。
俺、全然普通じゃん。
・・・やっぱり、イヤだな。
自分の性に振り回されながら、この先を生きていくのって・・・。
『Normalでありたい』
そんな願いが、また、星斗の心に沸々と蘇ってきてしまう。
眞門に押し込められ、閉じ込められた性は、なかなかすぐには変容できないでいた。
また、夜になると、食事処で昨日みたいな変態Playをしなきゃいけないんだよな・・・?
・・・俺は嫌いだ。
普通に食事がしたい、今さっきのデートみたいに。
どうでも良いことを話して、美味しいものを楽しく食べて、知未さんとくだらないことで大笑いしながら、普通に食事がしたい・・・。
それに、あの仲居さん達の目に囲まれるのも苦手だ。
Subを小馬鹿にする目。
いくら仕事だからって・・・俺はあんなのされても、全然嬉しくない。
星斗の心にどんよりとした何かが再び覆いつくし始めた。
入浴を済ませ、脱衣所で濡れた体をタオルで拭きとると、替えの下着がないことに気がついた。
宿に戻ると、部屋には戻らずにそのまま大浴場へとやってきたからだ。
勿論、服装もSubの館内着であるスケスケ浴衣ではなく、シャツとズボンの私服のままだ。
しかし、脱衣かごには、昨日の唯一の名残りである、脱いで置いてある黒のレースのTバックがあった。
今夜はこういうのも、履きたくない。
星斗の中で幾度となく蘇ってくるNormalでありたいという願望。
今夜もまた、卑猥な館内着のスケスケの浴衣を着て、食事処に行かなければいけない。
なら、下着ぐらいは自分が許せる範囲の、これなら履いても良いと思える下着を身に付けたいと思った。
脱衣かごにあった黒のレースのTバックをゴミ箱に投げ捨てると、下着を履かずに、シャツとズボンを着て、そのまま売店へと向かった。
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