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もうひとつの理由③

「・・・ええっ!?」 艶々旅館の女将から連絡を受けた拓未はスマホに向かって驚きの声を上げた。 「ああ、それで?」 眞門のお仕置きPlay中に何が起こってしまったのか?   その一部始終を監視していた女将から、拓未は説明を受けた。 「・・・そうか。じゃあ、知未がサブドロを引き起こしたわけじゃないんだね? 星斗クンが目隠しをされたら、それが原因で星斗クンが勝手にSub dropを起こしたんだね?」 女将にそう確認すると、女将からは「そうです」と、返事が返って来た。 拓未はそれを聞いて、ひとまず安心した。 もし、眞門がSub dropを誘発していたら、今度こそ、眞門がSub drop症候群を引き起こしかねない。 そう思うと、自分はそこまでの危険性を考えていなかったと思い、反省した。 自分の疑念を払拭したいがために、バカなことを女将に申し出てしまった。 まさか、こんな惨事が起こってしまうとは。 マスターとして、自分の読みが甘かったと猛省した。 「それじゃあ、知未がした仕打ちは目隠しをしただけなんだね?」 拓未は念のためにもう一度確認する。 『はい。知未さんはこれと言った仕打ちはしておりませんでした』 「それじゃあ、星斗クンは目隠しをされることがダメだということか・・・? しかし、そんなSubが普通いるかい? 私は聞いたことがないよ」 『はい、おっしゃる通りです。うちの旅館でも目隠しをされてPlayするカップルは今までたくさんいらっしゃいましたが、こんなことは初めてで。Subは目隠しされるのが大好物な生き物ですから。あんな異様な怖がり方を見せたSubの方を見たのは私も初めてでございます。 知未様を庇うわけじゃありませんが、普通なら、あの程度のことでSub dropを起こすSubはいないと思います』 「そうかい・・・・」 ならば、星斗クンには目隠しに何かトラウマがあるということか・・・? 「・・・あっ」と、拓未は小さな声を上げた。 以前に、眞門に内緒で星斗に他のカップルのPlayを鑑賞させたところ、そのPlayを異様に軽蔑するような目で見ていた姿を思い出した。 星斗クンは知未を愛している以外に、他に何か理由があって、Playする相手は知未じゃなきゃいけないということか・・・? ひょっとして、知未以外のDomを憎んでいる・・・? 星斗クンが知未しか相手がダメだと思い込んでるのは、知未が一方的にそう躾けたわけではなかったのか? 拓未はマスターでの培った経験から、星斗がひとりでSub dropを起こしてしまった原因を拓未なりに探ってみた。 「・・・それで、ふたりとも無事なんだろうか?」 拓未は一番大切なことを聞くと、眞門も星斗も大事になることなく、すぐにその場で回復出来たと女将は報告した。 星斗が発作的にsafe wordを口走ったことで、大惨事は免れたのではないか、と、女将なりの推測を続けた。 星斗がsafe wordを口走ったのは、明生の暗示が発動してのことだろうと、拓未はすぐに理解し、明生の潜在能力の高さに畏怖した。 大事には至らなかったと聞いて、拓未は落ち着きを取り戻す。 「本当にすまなかった。私のわがままな頼み事でそんな大変なことにしてしまって。本当に申し訳なかった」 拓未は女将に対し、思いつく限りの謝罪の言葉を述べると、通話を終えた。 拓未は通話を終えると、ふたりの未来を案じた。 眞門がDomの暴走に飲まれる原因を独自の調査で見つけだした拓未は、眞門が本当にDom性の欲求をコントロール出来るのか、それを確かめたくて、艶々旅館の女将に無理な願いを申し出た。 ふたりのためにそれを確かめてやることが必要だと思ったからだ。 しかし、それはしてはいけないことだったかもしれない。 自分の余計なお世話のせいで、ふたりがどんな未来を選択することになってしまうのか? そう思うと、自分のしたことは正義ではなかったと、深く反省した。

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