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進むべき道

夜遅くに、眞門の愛車が自宅の駐車場に止まった。 「・・・大丈夫?」 眞門の問いかけに、星斗は静かに頷いた。 「なら、俺はこれから父さんに会いに行ってくるから。星斗は家でゆっくり休んでて」 ふたりとも表情は冴えなかった。 大事にはならなかったものの、星斗がSub dropを起こしかけたことで、楽しい温泉旅行で終わるはずが最悪な幕切れとなってしまったからだ。 帰宅する道中も会話らしい会話もないまま、静かな帰路となった。 「知未さんは大丈夫ですか?」 「ああ。けど、まだ少し痛みが残ってる」 眞門は苦笑いを浮かべた。 「ごめんなさいっ! 俺が勝手に・・・っ、ホント、出来損ないなばっかりに・・・っ」 「違うよっ、謝って欲しくて正直に答えたわけじゃないんだ」 眞門は慌てて否定した。 「謝るのは俺だから。ごめんね、あれだけ訴えてたのに、Domの欲望に飲まれてしまったせいで、お仕置きすることに夢中になってて、気づいてやれなくて本当にごめん。反省してる。怖い思いさせたよな。だから、しっかりと味わうから、この痛み。星斗がどれだけ怖い思いをしたってことを」 「・・・・・」 眞門にそう言われても、星斗は笑顔を見せることはなかった。 「本当に大丈夫? 部屋まで送って行こうか」 「いえ。・・・あのっ」 「ん?」 「帰って来てくれますよね?」 「え?」 「お父様とのお話が終わったら、絶対に帰ってきてください」 星斗は怯えた顔で眞門に訴えた。 「ああ」 眞門は安心させるように、星斗に笑顔を見せて約束した。 ※  ※ 自宅にひとりで戻った星斗は、シャワー浴びようと浴室に向かった。 シャツを脱ぎ、洗面所にある鏡に裸になった上半身を映す。 左胸を右手で摩る。 【知未のSub】 ここに昨日はあった文字だ。 とても恋しく思う。 さっきの、目隠しをされたPlayで大事なことが分かった。 どうして、俺がここまで知未さんに執着するのか? どうして、知未さんじゃなきゃダメなのか? すごく大切な事。 それを伝えなきゃ。 星斗は「反省してる」と、口にした時の眞門の顔を思い出す。 あの、優しくて情けない顔をする時は、知未さんが俺に別れを切り出す時だ。 星斗は、眞門がしようとしている決断に既に勘づいていた。

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