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進むべき道②
星斗を自宅に残して、眞門は拓未の別宅を訪ねた。
「話って何ですか?」
眞門はリビングに入るなり、そう切り出す。
「どうしたんだ? そんな怖い顔をして」
ふたりの身に何が起こったのか、女将からの報告で既に承知しているが、拓未はそれは隠したまま、眞門の様子を伺った。
「星斗クンは?」
「良い話じゃないんでしょう」
ぶっきら棒に言う眞門。
・・・だから、連れてこなかった。
拓未はそんな意味合いに聞こえた。
眞門はソファに腰を下ろすと、向き合う様にして拓未もソファに腰を下ろした。
「お前だけじゃなかった」
拓未がそう切り出す。
「Dom性の欲望が暴走しているDomが他にも確認出来た。どうやら、原因はあのコンタクトレンズのようだ」
あのコンタクトレンズとは、眞門が社長を務めるMA-MONが発明した、Dom専用の特殊なコンタクトレンズのことだ。
このコンタクトレンズをDomが装着すれば、マスターの域までのGlareの能力が使えるという代物だ。
「あのコンタクトレンズを装着している全員に症状が現れているわけではなかった。ごく一部の者だ。共通点は特定のSubの相手がいる者だけ」
眞門はそれを聞くと、どこか納得したような顔を浮かべた。
「瞳の色を変えるGlareを日常的に使っていたから、ですよね?」
「ああ。そんなところだろう」
眞門は薄々、何かを感じ取っていたのか、拓未の報告を聞いても、至って落ち着いた様子だった。
「マスター同様のGlareを日常的に使うことで、コントロール出来ないDomの欲求までも出てきてしまう。そんなところですか・・・」
「暴走気味になっていた者は皆、そのことはひた隠しにしていたようだ。私が話を聞くまではな。怖かったんだろう。だから、お前のところまで報告が来なかったのだと思う。まだ、大々的な実用販売まではいってなくて良かった」
「・・・良い話じゃないって言うのはそれだけですか?」
「いや、原因は分かったが、治療法までは以前として分からない。レンズの使用を止めて、あの圧倒的なGlareを使わなければ、症状はいずれ治まっていくのか? それも分からない」
「つまり、一生治ることもないかもしれない。そういう事ですよね?」
「ああ」
眞門は「ハアー」と、軽くため息をつくと、空虚な顔で遠くを見つめた。
「・・・気づいていたのか?」
「いいえ。ただ・・・。さっき、星斗をまた失いかけました。コントロールできないDomの欲求に襲われてて、星斗のサブドロしそうな変化に気づいてやれなかった・・・明生クンが星斗に暗示をかけてくれていなかったらと思うとゾッとします。で、思ったんです。これは何をやっても一生治らないものかもしれないって・・・」
「残念だ」
「はい・・・」
「とりあえず、コンタクトレンズの製作はまた仕切り直しだ。スポンサーなら、もう見つけてきてあるから。資金のことなら何も心配はいらない」
「・・・へ?」
「失明することなくGlareを使えるようになる。素晴らしい発明じゃないか。ここで研究を止める必要もないだろう。それにお前がやめたところで、他の誰かがこの先の研究を続けることになる」
「いや、ちょっと待ってください、この状況で俺に続けろって言うんですか?」
「ああ」
「失敗したんですよっ、俺の発明はっ! そのせいで、俺は星斗を殺しかけ・・・っ!」
「だから、なんだっ! 大事な息子をこのままにしておくわけにはいかないだろうっ!!」
拓未は眞門を思いっきり叱りつけた。
「ここで終えたら、お前は一生、その体質で生きていくことになるんだぞっ! だから、研究を続けて、一緒にその治療法も見つけるんだ!」
「父さん・・・」
拓未に突き付けられた選択を選ぶことが正しいことなのか、今の眞門には分からない。
が、拓未の父としての深い愛情が伝わってきた以上、何も言い返せなかった。
「・・・それで、どうするつもりだ?」
拓未が哀れんだ顔を浮かべた。
その表情が何を意味しているのか、それが分かると、眞門も切ない表情を浮かべる。
「星斗クンとのことはどうするつもりでいるんだ?」
「・・・・・」
「原因も分かった。コントロール出来ないことも分かった。治療法も今はない」
「・・・・・」
「星斗クンの都合もあるし、星斗クンの親御さんの立場だってある。いつまでもこんな宙ぶらりんのままで待たせておくわけにはいかないだろう」
「・・・そうですね」
「それで、星斗クンはもう大丈夫そうか?」
「・・・はい」
「それは良かったな」
「星斗は依存系です。それもかなりの。次の主人を見つけたら、俺のことなんてすぐに忘れて、新しい主人と仲良く出来ると思います。そこだけは良かった。星斗が依存系のSubで良かった」
「そうか」
「・・・あの、これは父親ではなく、マスターに尋ねていいですか」
「なんだ?」
「俺は一体、どうするべきだと思いますか?」
「それは自分で考えなさい」
「・・・・・」
「側に居てやるのも、距離を置いてやるのも、どっちも相手を思ってのことだ。相手を思いやって出した答えに、正しいも間違いもない」
「・・・そう・・・だと良いんですけどね」
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