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進むべき道③

眞門が拓未の別宅から帰宅すると、深夜を回っているにも拘らず、リビングのソファに星斗の姿があった。 「おかえりなさい」と、眞門の帰りを待ってたように出迎える星斗。 「休んでてよかったのに」 「知未さんこそ、お疲れじゃないですか」 「いいや」 星斗が不安そうな顔で眞門を見つめた。 「どうしたの?」 「どうしても伝えたいことがあって」 「俺もだよ」 眞門は星斗の隣に座った。 眞門はじっと星斗を見つめる。 「正直に話すね。俺の症状。Dom性の欲望が暴走する症状。一生治らないかもしれない」 「えっ・・・」 「後、星斗が大好きなGlareももう使えなくなった。俺が発明したコンタクトレンズが全ての原因だったんだ。だから・・・」 眞門は一呼吸すると、「・・・これ以上、前には進めなくなった、俺たち」と、別れを伝える。 「ごめん、本当にごめん。普通のDomどころか、俺、ぽんこつだ。ポンコツのDomになった。だから、別れてくれないか。星斗のことを幸せにしてやれない。それどころか、これからどんな怖い目に遭わすかも分からない」 眞門はそこまで言うと、涙が溢れ出そうになったのか、星斗には泣き顔を見せまいとして、顔を背けた。 「そうですか」 星斗は淡々とした口調で受け入れると、「じゃあ、今すぐ、また目隠しをして俺をSub dropさせてください」と、続けた。 「・・・は!?」 「俺、知未さんじゃないとダメだって分かったんです。だから、知未さんに捨てられたら終わりなんです」 「またそんなこと言う!」 「違うんです、今までのとはっ。さっき、目隠しされて、サブドロしかけて分かったことがあるんです。俺がどうして、知未さんじゃなきゃダメなのか、ってことに」 今度は星斗がじっと眞門を見つめた。 「知未さんがあの夜、俺を助けてくれたからです。目隠しされた途端、Sub dropしそうになったのは、酷いことをされそうになったあの夜のことを思い出したからなんです」 星斗は眞門にSub dropしかけた理由を打ち明ける。 「めちゃくちゃ怖かった。あの夜。何が何だか分かんなくて、目の前が真っ暗になって・・・。俺、必死で誰かに助けを求めてたんです。その時に現れてくれたのが知未さんだったんです。あの時の知未さんは俺にとって、まさしく希望だったんです。だから、俺は知未さんに見守ってもらってるっていう実感がないと、知未さんが側に居てくれてるっていう安心感がないとPlayが出来ない、ポンコツなSubなんです。どんな時だって、この人が必ず俺を守ってくれる。他のDomとは違う。その安心感を与えてくれるのは知未さんだけなんですっ。だから、俺は知未さんに相手してもらわないと無理なんです」 「星斗・・・」 「俺は知未さんよりももっとポンコツなSubです。だって、知未さんに捨てられたら、Play出来なくて引き籠るか、他のDomとPlayすることになってSub dropするだけですからっ」 「だからって、俺は自分の手で星斗のことを傷つけたくないんだよっ! 矛盾してるのは分かっているけど、俺は虐めるのは好きでも、傷つけたくはないんだよっ!」 「分かってます。知未さんが不条理の塊で出来上がっているってことは」 「・・・え?」 「絶対にそう言ってくると分かってました。知未さんは優しい人だから。あんなことを俺にした後だから、絶対に別れを告げてくるって思ってました。ホント、俺の愛する人はDomなのにDomらしくなくて困る。不条理のかたまりそのものです」 「星斗・・・」 「俺はSubです。だからこそ、不条理の塊で出来上がっている眞門知未というDomに素敵なものも良くないものも与えられることが何よりの悦びなんです。不条理の塊で出来上がったからこそ一緒に居て楽しいんです。知未さんは俺の希望です。それだけで側に居たいって言ったらダメですか?」 「なんで、そうやって、いっつも俺を甘やかすそうとするんだよっ」 「全然甘やかしてないですよ。今日みたいなことがまたあったら、死ぬのは知未さんの方ですよっ、俺は明生の呪いが守ってくれますからっ」 「でも、さっきの話で行くなら、俺が死んだら、星斗もいずれ死ぬってことじゃん」 「はい。だから、一緒に死んでくださいって、こうやってお願いしてるんです。Subにとっての、俺の最大限のわがままです。全然甘やかしてないですよ」 「なんだよ、それ・・・っ」 眞門は星斗を思わず抱きしめる。

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