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両家の顔合わせ②
「よろしいですか。
今は愛してあっているから良いのかもしれませんが、もしすぐに離婚にでもなったら、眞門さんに全ての面倒を見てもらっている星斗はその瞬間に路頭に迷ってしまうんですよ。星斗はSubである前に男なんです。男が仕事してなくてどうするんですか!」
一方的な意見を突きつけてくる加奈子に対し、眞門は湧き上がるDomの狂暴性からか、露骨にムッとした顔を浮かべる。
「あの、お母様。生意気なことを言わせてもらいますが、私のことをもう少し信じてもらえませんか。星斗と結婚するって決めたのは、星斗と別れるつもりが一切ないってことだからです!」
「それはそうじゃなきゃ困りますよっ!!」
加奈子の怒号が飛ぶ。
「!」
普段怒られ慣れていない眞門は加奈子の反撃に体をビクっ!とさせて、軽く怯えた。
Normalの加奈子にとって、相手がDomだろうが何だろうが関係なかった。
「こんな愚息と結婚しようなんて馬鹿なことを言い出す人なんですからっ、それぐらいの覚悟と自信を持っていただかないと逆にこっちが困りますっ!」
加奈子の迫力に負けて、眞門はすぐにシュンと大人しくなった。
「いいですか、私は眞門さんを信じていないわけじゃないんです。親として星斗の将来を心配しているだけなんです!」
「ですが・・・っ」
眞門は怯えながらも、負けじと反撃を試みるが、
「それについては私もお母様と同意見だ」
と、拓未が横から口を挟んだ。
「父さん!?」
「DomとSubはPlay以外は対等であるべきは原則だ。いくら相性が良すぎて、愛し合ってるからといって、お前たちは互いに依存しすぎてる。というわけで、お母様。星斗さんは近々、私が立ち上げる財団で働いてもらうことにします」
「はい!?」
「・・・えっ!?」
そんな話を全く聞かされていなかった星斗と眞門は拓未の突然の宣言に同じように驚いてみせる。
「それでどうでしょう。星斗さんの就職は私が責任を持って、面倒を見させてもらうということで」
眞門を遮って、拓未は加奈子に提案する。
「本当ですか!? そうして頂けると・・・。けど、離婚となった時には離職を要求されるなんてことは・・・?」
「私は星斗さんの人間性を買っていますので、たとえ、星斗さんと息子の関係が悪くなったとしても、私個人は星斗さんと末永く仲良くしていけたらと思っていますよ、ねえ、星斗クン」
拓未から独特なDomの圧が星斗に向けられた。
悪寒が体中を走り抜け、得も言われぬ恐怖を体感させられた星斗は、
「えっ、あ、はい・・・」
と、同意してしまった。
しかし、まだひとり納得いかない眞門は悶々としている。
「ですが、父さん、俺は家に居て欲しいんです。働いて欲しくは・・・」
拓未は眞門の耳元に顔を近づけると、「財団は明生クンの為に作るんだ。これはマスターの命令だ。逆らうなら、息子であろうと調教部屋に連れて行くぞ」と、小声で囁く。
「そんな・・・っ」
「彼にはこの先、味方が必ず必要になるんだ。それには兄である星斗クンが一番の適任だ」
眞門はまたもや露骨に不機嫌な顔を見せた。
この世で最も嫉妬を燃やす相手、明生に星斗を最後に奪われた気がしてならなかったからだ。
「ハァー、眞門さんのお父様はなんてお話が分かる方なんでしょう。ねえ、あなた」
加奈子が隣に座る青司に同意を求めた。
「えっ!? ああ、そうだな・・・」
青司は存在を消すかのようにとても静かにしていた。
「どうかしたの?」
「いや」
表情もどこか冴えない。
「なんか、顔色が良くないみたいだけど?」
「え、ああ、腹の調子が良くないみたいなんだ・・・」
「大丈夫?」
「ああ」
と、そこに拓未が声を掛けてくる。
「星斗さんの就職の件は、お父様もそれでよろしいですか?」
「! ・・・はいっ! あなたがそうおっしゃるなら」
と、ドキマギした態度を見せる青司。
「ちょっと、あなたがそうおっしゃるならって、なによそれ・・・大袈裟じゃない・・・緊張しててお腹の調子が悪いんじゃないの・・・?」
拓未と青司の秘密を知らない加奈子は青司のおかしな態度をおかしく笑った。
「大丈夫ですか、お父様」
体調を気遣いながらも、拓未は青司に対してニヤリと悪い顔を見せた。
「! ・・・はいっ」
今度はおどおどとした態度を見せると、拓未の視線から逃げるように青司は下を向いた。
「どうしたの? 変よ、あなた今日・・・」
どことなく落ち着きのない様子の青司を加奈子は不思議がった。
「・・・大丈夫だ。腹の調子が悪いだけだから」
「そうなの・・・。でも・・・」
「それではお母様」
加奈子が青司を問いただす前に、拓未が会話を遮るようにして加奈子に声を掛けた。
「ふたりの結婚を認めてくださいますか?」
話し合いの締めくくりを求めるように加奈子に尋ねる拓未。
「はい。何卒、うちの息子をよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
拓未と加奈子が共に深く頭を下げたことで、両家が認めるふたりの結婚がようやく決まった。
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