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両家の顔合わせ③

「それでは、食事にいたしましょうか。さらに親睦を図るために」と、拓未。 「そうでございますね」と、上機嫌で答える加奈子。 拓未と加奈子が結婚についてのそんな話し合いを繰り広げている中、星斗と眞門は二人だけにしか分からないようにアイコンタクトでのやり取りを繰り返していた。 星斗が悩ましい顔を眞門に送った。 眞門は「ん?」と、白々しい表情をする。 星斗はそれを見て、ムッとした顔を見せる。 眞門は「ヒヒヒ」と、おどけた顔を見せた。 「!」と、星斗は何かに驚いた顔を見せると、次第に困った顔になり、おどおどとし始める。 眞門はその動きを見せて、ずっとニヤニヤしてみせる。 そして、眞門を見つめる星斗の顔が物欲しそうな顔に変わった。 眞門は声にはせず、口の動きだけを使って、星斗に伝える。 「ギ・ブ・アッ・プ?」 星斗がコクリと頷いた。 その仕草を見て、さらにニヤニヤさせると、眞門はまるで勝者のように顔をにんまりさせた。 「あのっ、すみません、星斗が少し具合が悪そうなので、部屋で休ませてきても良いですか?」 と、両家の親に了承を求める眞門。 「え、あなたも具合悪いの?」と、今更ながら、隣にいる星斗を心配する加奈子。 「あら、本当。顔が少し真っ赤ね・・・熱でもあるのかしら・・・?」 拓未が冷めた表情で眞門の耳元に顔を近づける。 「お前ら、こんな大事な席で、まさかPlayしてるんじゃないだろうな・・・?」 「するでしょ、記念の席なんですから。愛するSubに思い出を作ってやんなくてどうするんですか」 眞門の返答に、拓未は呆れ果てた。 「朝から、お腹の調子が悪いって言ってたんだよな。食あたりかな? 昨日のお寿司が良くなかったのかな・・・?」 と、眞門は突然、白々しい演技を始める。 「念のために、さっき、上の階に部屋を取っておいたので、そこで少し休ませてきます。食事はみなさんで先に頂いてください」 眞門は介抱するようなふりをして星斗に近寄ると、「はい、罰ゲーム~」と、小声で囁き、星斗を部屋から連れ出した。 眞門に連れられて部屋を出て行く星斗を見送った加奈子。 「眞門さんって、本当に星斗のことを大切に思ってくれてるのね・・・けど、星斗のどこがそんなに良いのかしら・・・?」 Normal性の加奈子は最後まで眞門の星斗へ対する愛が全く理解出来なかった。 「そういえば、あの子、昔からくじ運だけは良かったのよね・・・ねえ、あなた」 加奈子が青司に意見を伺うと、青司の顔色がまた一段と悪い。 「どうしたの? 本当に大丈夫?」 「・・・ああ、私も食あたりかな・・・。すみません、食事前なのに・・・ちょっとトイレに行ってくるよ」 青司はヨレヨレとした動きで立ち上がると、トイレに向かった。 と、そこに今度は拓未のスマホがバイブレーションで着信を知らせた。 「おっと、すみません、大事な仕事相手からだ。私も少し席を外させてもらいます。すみません」 そう言うと、拓未も通話をするために部屋から出て行ってしまった。 ポツンと部屋で独りになった加奈子。 「・・・ヤダ。食事楽しみにしてたのに・・・」

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