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第7話❀
せっかく作ったお弁当は、結局食欲が湧かなくて食べることが出来なかった。今日の夜から義父が居ない為、それを晩御飯にすればいいと考える。
食事を摂らなかったから昼の時間はたっぷり残っていて、雪は図書室に足を運んだ。
丹丘大学の一階にある図書室は去年改装を終えたばかりだった。床や壁もピカピカで本棚や備品も新調した図書館は、そこだけが別世界に入り込んだような錯覚にとらわれる。
本当はあの古い木造の床を踏みしめる音や、日焼けした本の独特な匂いが好きだったから少し残念な気持ちもあるのだが。
図書室はその日の授業を終えた生徒が、予習や勉強をする為によく利用している。だから、今の時間は人がちらほら座っているくらいで人目 を気にせず過ごせるから心が軽い。
程よい温度に設定された暖房によって室内も暖かく、心地よかった。
雪は均等に配列された本棚を見て回る。ナラの木で造られた本棚からは近付くたびにほんのりと甘い香りがした。
ふと、写真コーナーで立ち止まる。
各地のカメラマンが撮影した、世界の絶景を集めた写真集。それは、心の奥底の好奇心をくすぐった。
しかし、それは本棚の上段にある。同年代の男子の平均よりも低い身長の自分にはひょいと取れる高さではない。
届かないだろうなと思いつつも近くに踏み台もなくて、目一杯背伸びをして本に手を伸ばしてみることにした。
爪先立ちをしているせいで足が釣りそうだ。
あと、ちょっと。
そうして、本の角に指が触れそうになった時だった。
すぐ後ろに気配を感じ、息を呑む。真後ろに立った誰かは、雪の背後から手を伸ばしその本を掴んで抜き取る。
慌てて振り返ると、そこには昨日ペンを届けてくれた生徒が立っていた。
彼は人懐っこい笑みを浮かべると、その本を差し出してくる。
「この本、取りたかったんでしょ?」
「あ、ああ……」
戸惑いながら、その本を受け取った。
「それ、俺も読んだことあるんだ。ページをめくるたびにわくわくして楽しかったよ」
そう言われ、読みたい気持ちが更に高まる。
でも、素直に言葉が出てこなくて、口ごもってしまう。
違う、もっと何か、気の利いたことを言わないと。
けれど考えれば考える程、口は縫い付けれたように動かない。
昨日のことと言い、彼は根っからの優しい人間なんだと感じた。笑った顔も邪気がなく、自分と違って心が綺麗なのだ。
そういえば、名前。
下がっていく視線を上げ、思い切って口を開く。
「あの——」
「君、すごく綺麗だよね」
重なる声に、雪はピタリと止まった。いや、同時に口を開いたことに驚いた訳じゃない。
耳には、しっかりと彼の言葉が聞こえていた。穏やかな世界が、静かに絶対零度の地へと姿を変えていく。
雪は口をきゅっと硬く結び、目の前の相手を睨む。青年は、突然睨まれ驚いた様子で目を丸くした。
「最低だな」
吐き捨てるようにそう言い放ち、手に持っていた本を相手の胸に押し付けて図書館を出て行った。
二度目の出会いは、最悪だった。
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