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第20話❀

「ここが、俺の家だ」  結局、鴫原には家までついてきてもらうことになった。  完全に家バレだ。相良雪と相良夏輝のプライバシーがこの日一人の人間に(さら)されてしまった。  でも不思議と嫌な気持ちはない。 「じゃあ、大学で会った時は声かけてね。ご飯、ちゃんと食べるんだよ」  子供扱いするなと言葉にはせず睨みつけると、鴫原は嬉しそうに笑う。 「おやすみ、相良」  鴫原は手を振ってから、背を向ける。あまりにあっさりしすぎていて、呆然としてしまう。  本当に、これでいいのか? 今度はいつ会える? こういう時はどうしたらいい?   なにか、なにか——。 「し、鴫原!」  背中に向かって名前を呼ぶと、彼は振り返る。 「どうしたの?」  まずい。考える前に声が出てしまった。  寒さからか、それとも緊張からなのか、唇が震える。 「……わ、わざわざ、ごめん。気遣わせた。えっと……」  必死に思考を動かしても言葉が全く出てこなくて情けなくなる。  恥ずかしさのあまり顔が合わせられなくなり、視線がどんどん足下に落ちていった。 「ありがとう!」  急に叫ばれ、反射的に視線が鴫原に戻される。 「そういう時はごめんじゃなくて、ありがとうの方が嬉しいな。それに、気を遣ってるんじゃなくて俺がしたくてしたんだからいいんだよ。ありがとう、相良」  鴫原は満面の笑みで手を振ると、今度こそ駅に戻っていった。  ——ありがとう、相良。  その言葉が何度も脳内で再生される。  地面に薄く積もった雪は、確かに鴫原の足跡を残していた。

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