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第26話
流星群は都市部から離れた所の方が見えやすい。車での移動が必要になるが、一応高校卒業前に免許は取っている。
取得してから一度も運転できていないが、まあ大丈夫だろう。
道具も借りてしまえばわざわざ揃える必要もない。
山のコテージを借りて、夜に草原に寝転がって見る流星群は、邪魔する光もなくありのままの姿を披露してくれるに違いない。
「冬は寒いから、春とか夏あたりに行こう。それまで色々とプラン考えておくからさ」
相良は何度も瞬きした後、目を逸らして小さく頷いた。
どこか嬉しそうな横顔が可愛いと思ってしまう。
「あ、でもその前に遊んだりもしようよ。買い物でもいいし、俺の家……だと弟妹いるからうるさいけど、相良が嫌じゃなかったら——」
あ、やばい。また悪い癖がでた。
慌てて口を噤 みおとなしくすると、相良は少しの間 を置いてから口を開いた。
「……休日は、基本空いてる」
その返事は、オッケーということだろうか。陽は高揚する感情を必死に抑えた。
電車を乗り換えた後は、あっという間だ。後一駅でバイト先の最寄り駅についてしまう。
名残惜しい気持ちを噛み締めていると、不意に雄大に言われたことを思い出した。
「ねえ、相良のライン教えてよ」
「ナイン? なんだそれ」
「ラインだよ。……もしかして、知らない?」
相良は首を傾げた。
まさか、自分と同じ年にしてラインを知らないとは。でも、そういうこともあるのかもしれない。
「スマホは持ってる?」
「あ、ああ。ある」
相良はショルダーバックからスマホを取り出す。
ポケットから出さない辺り、頻繁に使用していないことが見て取れた。
「なにか連絡とれる手段ないかな? あ、メールとかは?」
「メール……」
そう呟いて慣れない手つきでスマホを操作する相良の眉はハの字だ。
「……パス。自分のアドレス覚えてない」
相良は諦めてスマホごと渡してきた。
「わかった。俺のアドレス、登録しておくね。メールの見方は分かる?」
「それは、分かる……と思う」
あまり時間がないから話しながら打ち込んでしまう。
相良のスマホはカバーもつけていないのに新品のように綺麗で、本当に使うことが少ないんだと感じた。
相良のスマホから送った空メールが自分のスマホに届くと同時に、駅は最寄り駅に着いてしまった。
「連絡するから、たまにメール見てね。電話番号も登録しておいたから、いつでもかけて! またね!」
バタバタしたが、電車から降りるのに間に合う。
閉まる扉のガラス越しに見える相良は、呆然としている様子でこちらを見ていた。
手を振ると電車は発車してしまう。
さっそくメールを送ってみようとスマホを開き、鴫原はまずいと思った。
美桜から心配のラインと、電話が一通きていた。朝におはようとラインを打ったきり、美桜に連絡をしていなかった。
慌てて返信しようとすると、スマホの画面が着信画面に変わり手の中で震える。
「もしもし」
『陽? ……よかった、全然連絡ないから、何かあったのかと思って……』
「ごめん、全然返事できてなくて……。美桜は、これからバイト?」
『うん。ねえ陽、再来週のクリスマス、空いてる?』
再来週はクリスマス。もうそんな時期なのか。
「大丈夫、ちゃんと空けてるよ」
『そっか……。ごめんね、電話しちゃって。バイト頑張ってね』
美桜との電話はそこで終わった。
電話が切れると同時に、もやっとした言い表せない感情を覚えて陽は真っ黒なスマホの画面を見つめた。
頬にひやりと冷たいものがあたる。顔を上げると、雪が降って来ていた。
差し出した手の平に上に落ちた雪は、切なくもあっという間に溶けてしまう。
ふとした時に、なぜか相良の顔が浮かぶ。
驚いた顔、嬉しそうな顔、泣いた顔、笑った顔。
この感情の名前を、自分は知っている気がした。
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