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第27話❀

 今日は、クリスマスイヴ。そして、自分の十九の誕生日だ。  教室は五限目の授業を終えた途端、興奮する男女の会話でやかましくなった。 「お前彼女になにあげんだよ!」 「避妊はちゃんとしろよリア充」 「これから彼氏とイルミネーション見てホテルに泊まるんだー」  非常に下品で価値の見出せない会話を無視して教室を出る。  不思議なことに、最近はあの騒がしさに苛立つことが減った。  前だったら側を人が歩く音ですら敏感に聞こえて具合が悪くなったりしていたはずなのだが。  ——相良は一人じゃないよ。  急に記憶が蘇り顔が一気に熱くなるから、慌てて俯き加減で歩く。  あの日、あの出来事があった後の授業は全く集中が出来なかった。  鴫原の匂いや声を何度も思い出してしまい、ノートに書いている字のところどころはぐちゃぐちゃに塗りつぶされていた。  そのページを開くたびに、ここで思い出したんだということが目に見えてしまって、また恥ずかしくなるのだ。  もういっそのことそのページを(のり)でくっつけて開けなくしてしまいたい。  雪はちらりと鞄の中でピコピコと光るスマホを見やる。  自分の連絡先には今まで義父のものしかなかったし、義父もあまり電子機器は使わないタイプの人だから、なかなかメールを送ってくることはない。  だとしたら、これは鴫原からの連絡だろう。  連絡といっても、いつも「今日は天気がいいね」とか「早く授業終わらないかな」とか、そんな他愛のないことばかりだ。  それでも毎日一通は送ってくるおかげで、ボタンの打ち込みには少し慣れて来た。  点滅しているのが気になって開いてしまおうか悩んだが、先程彼のことを思い出して赤面していたばかりだから、せめて外に出て冷気に当たりながら見ようと決める。  ふと、人通りの少ない廊下で立っている郡司の姿が見えて雪は歩み寄った。  彼は何やら廊下の壁に貼られた掲示板を見ていて、こちらに気が付くと目元を細めて笑った。

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