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第33話❀
クリスマスの次の日の教室は、どこもかしこもざわめいていた。
プレゼントは何をもらっただとか、皆自慢をしたくて仕方がないのだろう。
自分も、今日は義父からプレゼントしてもらったコートを着て登校した。
前のコートより断然軽くて暖かかったし、着ているだけで幸せに包まれている気分になる。
義父も、今朝はプレゼントしたネクタイをつけて仕事に向かった。
「似合う? かっこいい?」と家を出る直前まで何度も聞いてくる姿を見て、本当に嬉しいんだということが伝わってきたから、これからは何か一つでもプレゼントしよう、そう決めた瞬間だった。
二限目の終わりを告げるチャイムが鳴ると、雪はすぐにコートと鞄を持って図書室に向かう。
静かな所に行きたかったというのも理由の一つだが、それだけではない。
相変わらず一番乗りの図書室に足を踏み入れ、いつもの席に腰掛ける。
今日は、来るだろうか。そう思いながら窓に目を向ける。
浅く積もっていたはずの雪はいつの間にか深雪になっていて、鴫原と二人で座ったクスノキを囲む円形ベンチにも雪が降り積もっていた。
クリスマスが終わったら、あっという間に一年が終わる。
そういえば去年の今、自分は何を考えていただろうか。
受験を迎えるにあたって、特に他にすることもなくて常に机に齧りついていた気がする。
あの時は、大学で何かが変わるなんて想像もしていなかった。
友達も出来ず、一人の時間を過ごして生きて行くと思っていた。
でも、今は――。
カラカラと扉の開く音が聞こえ、雪は反射的に入口に目を向ける。
鴫原は、こちらに気が付くと大きく目を開いて笑った。
「さ――」
彼は手を上げてを名前を呼ぼうとするが、既に図書室にいた他の生徒の視線を浴び、慌てて手を引っ込めるとこそこそと中に入って来た。
「おはよう、相良」
わざとらしい小声が可笑しくて、思わず笑ってしまう。
「おはよう」
別に、約束した訳じゃない。
でも、なんとなく、今日は来てくれる気がしたのだ。
「よいしょ」
鴫原がいつも通り隣に座ろうとすると、トン、と一瞬肩が触れる。
「!」
「あ、ごめんっ」
「……気にするな」
そう素っ気なく返すが、冷静な口調とは裏腹に心臓は激しく脈打っていた。
最近、おかしいのだ。
鴫原といると胸が苦しくなったり、よく分からず楽しく成ったり、多様に変化する感情に戸惑いを感じることがあるのだ。
夜、布団に入って目を閉じると何故か鴫原が目の前に現れたりする。鴫原はいつものように柔らかい笑みを浮かべているのだが、段々とこちらに顔が近付いて来て、自分は慌てて目を覚ます。そんな夢を時々見るのだ。
もしあのまま目を覚まさなければ、自分と鴫原はどうなるのだろう。
いつもあまりの近さに耐えられず目を覚ましてしまうから。
「ねえ、相良。目瞑 って?」
「え?」
急にそんなことを言われ、怪訝な顔をしてしまう。
「や、やだ……」
「いいからいいから! いいよって言うまで目開けちゃだめだよ」
断ったはずなのにそうしなきゃいけない流れになり、警戒しながら目を閉じる。
ガサガサと袋を漁るような音が近くで聞こえる。
視界が奪われた分、周囲で動き回る足音や椅子に座る音がやけに大きく聞こえて落ち着かない。
ふと、夢のことを思い出す。
微笑んだ鴫原が段々近付いてきて――。
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