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第34話❀
「相良」
「うわあ!?」
「なに!?」
急に顔の前で腕をクロスさせる雪に、鴫原も驚いて飛び上がる。
前の方の席に座っていた二人の生徒が迷惑そうにこちらを見ていた。
「わ、悪い……」
「ごめん。急に呼びかけたからびっくりさせちゃったよね」
「いや、鴫原は悪く……ん?」
腕を解くと、目の前に何かが置かれていることに気が付く。
それは緑色のリボンが巻かれた赤いラッピング袋だった。
「俺からのクリスマスプレゼント」
はっとして鴫原を見る。
鴫原は頬杖をついてこちらの様子を見ていたが、その頬は少し赤らんでいて照れくさそうだった。
「……なんで……」
「たまたま見つけて、どうしてもあげたくなっちゃった。ね、開けてみてよ」
そっと袋を手に取り、膝の上に乗せる。
リボンを解き中に入っているものを取り出すと、それはクリスマスイヴに自分が鴫原にメールで送った写真のぬいぐるみだった。
愛らしい薄桃色のうさぎが、つぶらな瞳でこちらを見ている。
想像よりもふわふわしていて、触れているだけで心が温かくなっていく。
「この子、ちょっと相良に似てない?」
「どこ、が――」
言葉が途切れ、ラッピング袋の上に雫が落ちた。
「えっ、相良!? ごめん、嫌だった?」
心配する鴫原に「違う」と言いたかったけれど声が出せず、首を振って否定する。
違う。違うんだ。
蓋をした記憶から、溢れ出てくる思い出。
自分と同じくらいの大きさのぬいぐるみを抱き締めてはしゃぐ雪を、嬉しそうに見守る両親の姿がそこにあった。
切なくて、苦しくて、愛おしかった。
「ありがとう……嬉しいよ」
ぎゅうっとぬいぐるみを抱き締める。
溢れ出る記憶も、一緒に抱き締めているようだった。
ふと、髪に何かが触れた気がして横を見ると、鴫原の指がすぐ目の前にあった。
その指は、顔にかかっていた髪をすくって耳にかけると、そのまま頬をなぞった。
え? なに……?
二人の間には沈黙が流れていた。
鴫原の瞳も、時が止まったかのように真っ直ぐこちらを見ている。
ドクン、ドクン、と心臓が大きく脈打つ。
「しぎ、はら……っ」
声を絞って呼びかけると、鴫原は我に返ったようにはっとして雪の頬から手を離した。
「ご、ごめん……っ!」
その顔がみるみる赤くなっていって、自分もつられて顔が熱くなる。
「俺、もう行かないと! またね、相良」
「あ……っ」
鴫原はまだ手をつけていない弁当箱を勢いよく鞄に突っ込むと『図書室では静かに』という張り紙を思い切り無視してバタバタと出て行った。
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