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第35話

 鴫原は廊下を駆け、急いで大学を出た。  玄関前で膝に手をついて何度も激しい呼吸を繰り返す。  この動悸は、単に走ったからだけではないだろう。 「……っ」  頬を染めた相良を思い出し、また顔が熱くなる。  嫌がるんじゃ、ないんだ。  不意打ちとはいえ、まさかあんな顔をするなんて思っていなかった。  耳の形まで綺麗だ、そんなことを一瞬思ってしまった。  触れたいと思った。  抱きしめたいと思った。 「やばい……」  これは、恋だ。  気持ちが明確になった途端、高揚と不安が同時に押し寄せてくる。  もう、自分の想いに目を背けることは出来ないだろう。  でも、相良が自分のことなんて微塵も興味がなかったら?  この想いを伝えたら、二度とあの時間を過ごせないかもしれない。    でも、でも――。  やっぱり、相良が好きだ。

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