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第36話❀
あの一件があった次の日から、冬休みが始まった。
冬休みといっても、自分は特に予定もなにもない。
しばらく鴫原と会えないんだーーそんなことを思っていると、不意に最後に会った日のことを思い出し顔が赤くなる。
次の日も次の日も、思い出しては一人で悶々としているのだ。
どうして、あんなことをしたんだろう。
聞くわけにもいかないし、聞いたところでどうしたらいいかも分からない。
もしかしたら、鴫原にとっては当たり前のスキンシップなのかもしれない。
でも、鴫原の行動よりも、触れられて嫌だと思わない自分が一番不思議だった。
「雪、最近楽しそうだな」
義父からそう言われ、雪は食事をする手を止めて顔を上げた。
向かい側に座る義父は目が合うとふっと笑みを浮かべる。
「そう、かな?」
否定はしなかった。
正直、最近は大学に行くことが少し楽しみになっているのだ。
「……うん、最近は、少し楽しい」
微笑み返すと、義父は驚いたように目を丸くした。
「雪、恋してるのか?」
「え?」
急な質問に心臓が跳ね、箸を強く握ってしまう。
自分とは縁のないたった一文字の単語に動揺を隠すことが出来なかった。
「こ、恋……?」
恋ーー。
一気にぶわっと顔に熱が集まる。
恋だって?
誰に? 誰にだよーー。
そんなの、一人しかいないじゃん。そうどこからか声が聞こえてくる気がした。
自覚した瞬間、酷くショックを受けた自分がいた。
だって、鴫原は男で、大切な友達で、俺に光を見せてくれたかけがえのない人なのに。
そんな人に自分の心を知られたら、絶対に気味悪がられる。
そんなの、嫌だ。
「悪い、変なこと言ったな。そんな顔しないでくれ」
いつの間にか眉間に皺が寄っていたことに気が付き、雪は慌てて顔を上げた。
「ご、ごめん。……ねぇ義父さん。好きって、どんな気持ち……?」
聞くと、義父はうーんと斜め上を見て何かを考える素振りをする。
「一人の時も、誰かといる時も、ふとその人が浮かんだり……会いたくなったりしたら、好きってことかな? まあ、俺も恋愛ってものにはあんま縁ないから、参考にならなかったら悪い」
義父はそう言って照れ臭そうに頭を掻いていた。
一人の時も、誰かといる時も、ふとその人が浮かぶ。
もう、何度そんなことがあっただろう。
じわじわと、己の気持ちが殻を破って、出てこようとする。
だめだ、出てくるな。
「雪、大丈夫か?」
「……大丈夫。ありがとう、義父さん」
精一杯の笑顔を作って微笑むと、義父はまだ心配そうにこちらを見ていた。
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