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第9話
「全部」
「全部う?調子のいいこと言ってんじゃねーよ」
「赤くなってますよ」
「ばっ、バッカやろう!恥ずかしいこと言うからだろっ‼︎」
僕はベッドの端に腰掛けると、耳まで赤くしてシャツのボタンをとめようとしている先輩の腰を捉えて、膝に乗せた。
「先輩こそ、僕みたいな冴えないやつ、まだ好きでいてくれますか?」
そう聞きたいが、怖くて聞けない。
そのまま抱きしめると、先輩も僕の頭を抱きかかえ、
「俺も全部」
とつぶやいた。
先輩に一目惚れして入部してしまったものの、僕は絶望的な運動オンチだ。何を習っても自分のものにするのに人一倍時間がかかる。
例えばサーブ。フローターサーブというのはコントロールが効きやすく、打ち方によって手前に落としたり出来るというのでやってみるのだが、みんながやっているように打つことが出来ない。小学生くらいで習うと、頭で考えるよりも先に体が覚えるので、高校生になる頃には目をつぶっても打てるようになる。だが僕はどうしても頭で理屈を考えてしまい、わけがわからなくなってしまう。
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