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漕ぎ手のヴァン01
「おやおや……ヴァンときたら今日も潮くさい」
鈴を鳴らすような優しい声色にたっぷりと毒を含んだその言葉に、砂浜に散るシーグラスを拾い上げていた青年は手を止めた。
日光の粒を1つ1つ搦めとるようなひどいくせ毛のプラチナブロンドを風に揺らす青年は、よく焼けた小麦色の肌に落ちる柳のようなほっそりとした影に合点がいった表情になり、ぱっと振り返る。
「春雨 、今日は随分早起きだね」
春雨と呼ばれたのは小柄な黒髪の少年。胸まで伸びた髪を三つ編みでひとつにまとめ、赤い中華風のガウンを羽織っていた。
薄紗 に繊細な刺繍が施された見るからに高価なそのガウンを惜しげも無く湿った砂浜に引きずっている。よく見れば、少年はガウンの他に何も身につけていなかった。歩くたびに裾から白い太ももが覗き、陽光でぼんやりと体が透けるその姿はあまりに艶かしい。
しかしヴァンは特に動揺することもなく、慣れた様子で立ち上がって、膝についた砂を払いながら春雨に尋ねる。
「おはよう、春雨。寝間着のままだけど、どうかしたの?」
春雨とヴァンは随分身長に差があるようで、春雨は自然とヴァンを見上げる形になった。自分をすっかり影の中に隠してしまうヴァンを見つめ、春雨は気まぐれな猫のようにつり上がった眦 を微笑と共にさらにつりあげた。
「別に。たまにはお天道様の出ているときに外を歩いてみようかと」
「たしかに、春雨は少し色が白すぎるから、もっとたくさん日の光を浴びた方がいいよ」
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