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漕ぎ手のヴァン02
大真面目な顔をして言うヴァンを可笑しそうに見上げながら、春雨はヴァンの腕についた海藻をつまみあげて捨てながら尋ねた。
「ヴァンはここで何をしていたんです?また石でも拾ってたんですか?」
「石じゃないよ。シーグラスを拾ってたんだ」
ヴァンは縹色のガラス片をひとつ春雨に渡した。
「シーグラス……"海のガラス"?でも……これは色をつけた石では?」
ヴァンに手渡されたシーグラスを訝しげに観察する春雨を見て、ヴァンは面白そうに笑みをこぼした。
「もともとはガラスなんだよ。波に揉まれて砂で削れて、こんな風に宝石みたいになるんだ」
「ふうん……透明だったガラスがね。初めて見ました」
「面白いだろ?“シークレッドガーデン”の中でもこの北の海岸でしか見つからないんだ。なんでだろう、潮の問題かな?」
「さあ。潮の流れことなら男娼の僕より“漕ぎ手”のヴァンの方が詳しいでしょう」
春雨はヴァンの手のひらの上で色とりどりのシーグラスを指でつつきながら、どこか上の空で答えた。ヴァンはシーグラスに夢中の春雨を見下ろし、嬉しそうに言った。
「北の海岸ではシーグラスがたくさん見つかるけど、南の海岸ではガラスの浮き玉が流れ着くし、西の海岸は面白い形の流木がたくさんあるんだよ」
「東の海岸は?」
「東は船着場だから……何も」
「ああ、そうでしたね。東からは金持ちの男しか流れ着いてこない」
春雨は皮肉っぽい口調で吐き捨て、桃色のシーグラスを一粒持ち上げた。
「ねえ、ヴァン。僕これが欲しいです」
「もちろんあげるよ!ほら、他の色もある。こっちの緑色のやつは丸くて形がきれいだし、この青いやつは……」
「この色が気に入ったんです」
「そう?あ、じゃあ今度は一緒にシーグラスを探してみない?春雨に一番似合うやつを探そう!」
「そこまでする必要はありませんよ」
「そんなことない。探したらきっともっといいやつがあるよ」
無邪気に笑うヴァンを見上げ、春雨は肩をすくめた。ヴァンは言い出したら聞かない。それをよく知っていた春雨はイエスともノーとも言わず、曖昧に笑う。
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