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漕ぎ手のヴァン07

「船の手入れですか?」 「うん」 春雨はヴァンの首元に鼻を近づけて、くすっと小さな笑い声を漏らした。 「ふふっ、磯くさい。まるで浜辺で干からびているワカメみたいですね」 「あー…たぶん、さっきロブさんに驚かされて転んだから」 ヴァンは気まずそうに笑いながら春雨から体を離した。自分から遠ざかっていく熱を追いかけるように視線を動かしながら、春雨はからかうようにつぶやく。 「仲が良くて結構ですね」 「ロブさんはみんなと仲がいいよ?」 「僕とは仲よくないですけどね」 「春雨がそう思ってるだけだよ。ロブさんはみんなに平等だ」 「どうだか」  鼻で笑ってから、春雨は膝を抱えて海を眺める。太陽が出ている時間にこうして桟橋にやってくる時の春雨は、たいてい寂しそうな目をしている。 ヴァンは少しの間考えてから春雨に尋ねた。 「少しだけ船に乗ってみる?」 「船に?」 「うん。二人きりで遠くまでいくと脱走だと思われちゃうから、桟橋から見える範囲だけど……。でも、昼間の海も気持ちがいいよ!」 春雨は膝を抱えたままヴァンを見上げ、くしゃっと表情を緩めた。 「しかたないですね。ちょっとだけ付き合ってあげます」 「よし、ちょっと待ってて」 ヴァンは仲間の漕ぎ手に春雨を乗せて船を出すことを伝えると、春雨に手を差し出して、飾り付けが終わった船に招いてやった。 春雨が勢いをつけて乗り込んだせいで船はぐらぐらと揺れたが、彼はそれすら楽しんでいるようで目を細めていた。 「外から見ることは何度もありましたが、船に乗るのは初めてです」 「天蓋の中に座るといいよ。この時間は日差しがきついから」 ヴァンは天蓋の中を指差したが、春雨は静かに首を横に振る。そして船尾の方にやってきてヴァンの足元に腰を下ろした。 「船を漕いでいるところが見てみたいんです。それに天蓋の中にいたら海が見えなくて、部屋の中にいるのと変わらないじゃないですか」 「好きにしたらいいけど……日焼けしないようにね」 「はいはい、わかりましたよ」

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