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漕ぎ手のヴァン13

 シークレットガーデンが本当の意味で目を覚ますのは太陽が水平線の下に沈んでからだ。 日が陰るとどこからともなく赤や桃や橙の妖しげな明かりが灯りはじめ、あっという間に島中が色めき立つ。それはまるで騒々しい色の宴だった。  煉瓦造りのゲートには赤い提灯が2つぶら下げられ、この提灯の中で火が揺らいでいる間は、シークレットガーデンが外の世界に開かれてるということを意味する。ヴァンはゲートキーパーたちが提灯に火を灯すのを見ながら、門の向こうに目を凝らした。  やがて、光で霞むシークレットガーデンの奥から、小さな人影と大きな人影が並んでやってくる。漕ぎ手たちはこのちぐはぐな2つの人影に気がつくと、誰からともなく桟橋に一列に並んだ。  小さな人影はその様子を満足そうに眺め、金糸や銀糸で刺繍がされた煌びやかな着物の袖を蝶のようにひらりと振った。 東洋の狐面のような風変わりな化粧と定規を当てたかのようにまっすぐに切りそろえた銀髪を除けば、どこからどう見ても小さな子どもだ。 ところが、その振る舞いは長年玉座に君臨する王のようだった。 「さぁて、お前たち」 漕ぎ手たちは愛らしい子どもの外見から放たれる堂々とした声に気圧され、誰もが一瞬目を伏せる。  まるで稚児のような見た目をしたこの小柄な人物こそ、シークレットガーデンの楼主。狂い咲きの花園を統べる者だった。 容姿こそ子どもだが、どうやら随分長い間このシークレットガーデンを管理しているらしい。ふとした時に「30年前の客たちは…」とか「50年前のこの島は…」という言葉が出てくる。  その楼主の背後に控えていた付き人であるロブは懐から小さなメモを取り出すと、よく通る声で漕ぎ手たちに今夜の客について伝えていった。 「今夜の客は40組だ。団体客が12人。全員梅の館に案内する。団体客は半分に分けて運べ。瓏、ヴァン、お前たちの船で運ぶんだ。薔薇の館の客はダニーと楊、肇、レオの船で。雛罌粟(ひなげし)の館の客は淳一、ヒューイ、オーリー、ロイで運ぶ。桜の館はポール、ライアン、福名、阮だ」  漕ぎ手たちは自分の名前が呼ばれるたびに小さく頷く。楼主は漕ぎ手一人一人の顔に視線を移し、全員の名前が呼ばれたのを確かめると元から細い目を一層細めて微笑んだ。 「ロブ、ご苦労だね。さぁて、私の可愛い漕ぎ手たち、今日も夜が始まる。お前たち漕ぎ手は昼と夜を繋ぐ者だ。さあ、今夜も私の花園の小鳥たちに餌を運んでおいで」

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