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漕ぎ手のヴァン12

 だが、ヴァンはそんな艶めいた目つきや、意味ありげな手つきを気にもせず、無邪気に笑いながら首を横に降った。 「あはは!そんなことしたら楼主様に怒られるよ。男娼がシークレットガーデンの中の人間と関係を持つのは規則で禁止されてる。クビになったら春雨も困るだろ?」  春雨はほんの少しだけまつげを震わせ、それからすぐに笑顔を浮かべた。 「ふふっ、真面目だなぁ。少しくらい乗ってくれてもいいじゃないですか」 ヴァンは照れ笑いを浮かべて自分の体に触れていた春雨の手を取って、桟橋の方に引き上げてやった。 「うーん、俺はこういうときに面白い言葉を返すのは苦手だからなぁ。でも春雨、本当にお礼なんていいよ。船に乗せただけだから。それに、俺も楽しかったし。だから春雨が俺にお礼をする必要なんてないんだよ。ね?」 「まったく、本当にヴァンは変わり者ですね。そうだ、じゃあもし北の海岸できれいなシーグラスを見つけたら、ヴァンのために取っておいてあげますよ」 「本当?それは嬉しいな。今、シーグラスを集めてランプシェードを作ってるんだ!浮き玉にシーグラスを貼り付けて作るんだよ。イメージできるかな、こう、モザイクみたいにね」 「へえ、なかなか凝ったものを作ってるんですね。完成したら見せてください」 「うん!うまくできたら春雨にも作るよ」  春雨はヴァンの背中をぽんっと叩くと、桟橋をゆっくりと歩いて梅の館の方へ戻っていった。 ヴァンはそのほっそりとした後ろ姿を見送りながら、最後にもう一度船を点検して周り、花以外は何もかも揃っていることを確認してから満足げに大きな背伸びをした。 春雨との小さな旅のおかげで、ヴァンの気も晴れていた。  夜がやって来るまでまだ随分と時間がある。自分の部屋に戻って潮くさくなった服を着替えて、それから昼寝でもして暗くなるのを待つことを考えると、ヴァンのよく日に焼けた顔には微笑みが浮かんだ。

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