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漕ぎ手のヴァン15
楼主は楽しげに言い残し、ロブを連れてさっさと帰っていってしまった。
ーーああ、やってしまった……
わかりやすくうなだれるヴァンを見て、漕ぎ手たちはその姿を見てくすくす笑いながら、次々と船に乗り込んでいく。
楼主のこのような振る舞いはいつものことで、特別珍しいことではない。気にしているのはヴァン本人だけだった。
霧の中に船を漕ぎだしていきながら、ヴァンは落ち込んだ気持ちを奮い立たせるようにオールを強く握る。
漕ぎ手の1人がヴァンの船を追い越しながら「楼主様、今日もご機嫌だったな!」と声をかけていった。そんな何気ない一言にヴァンはますます恥ずかしくなり落ち込んでしまったが、それでも、仕事はしなければならない。
漕ぎ手たちは外の世界からやってくる客を迎えるのが仕事だが、外の世界まで船を漕いでいくことはまずない。
漕ぎ手たちは霧の中に船を進め、霧の中で待っている外の世界からの船の脇に船をつける。外の世界からやってきた船には客が乗っていて、客たちは霧の中で外の世界の船からシークレットガーデンの船に乗り移り、島へと運ばれていくのだ。
ヴァンはいつものように外の船から自分のゴンドラに客を移動させ、シークレットガーデンに向けて船を漕いだ。4つの館では今頃春雨をはじめとする男娼たちが付き人に化粧をされ、衣装係の見立てた服で着飾っているだろう。
支度が終わる前に船が島に着くことがないように船の進路を操りながら、ヴァンは空を見上げた。
ーー夜になって風が強くなってきた
北の海岸に何か面白いものが流れ着くかもしれないな…
風で捲き上る髪を片手で押さえながら方向転換をしたとき、天蓋がぱたぱたとはためいて布がめくれ上がり、天蓋の中で酒を飲んでいた客の1人と目が合った。男はヴァンに気づくと、にこっと笑って天蓋から顔を出す。
「やあ!君とは以前も会ったことがあるよね?」
ヴァンは小さく頭を下げる。男は酒の入ったグラスを床に置き、まるで友達に語りかけるような口調で言った。
「今夜は風が強いね。それでもこうして船を揺らさずに漕げるのだから、流石だ」
「ありがとうございます。でも夜風は冷えるので、どうぞ天蓋の中へ」
「ありがとう!ああ、これは少しだけど…」
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