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漕ぎ手のヴァン10

 春雨はくすくす笑いながら水面から手を出した。濡れた指先を乾かすようにひらひらと振りながら、今度はヴァンの顔をじっと見つめて問う。 「左右の瞳の色が違うのは生まれつき?」 ヴァンは琥珀色の右目とヘーゼルグリーンの左目で春雨を見つめ返した。 「そうだよ。変だよね」 「別に変だとは思いませんよ。右目の琥珀色はお父さん譲り?それともお母さん譲りですか?」 「そこまではわからないんだ。父さんと母さんの顔は覚えてなくて……。どっち譲りなんだろうね。でもどうやら俺には色々な国の血が流れているらしいから、もしかしたらじいちゃんやばあちゃん譲りなのかも」 「なるほど、だからヴァンは他の誰とも違う見た目をしてるんですね。金髪の縮れ毛、左右で色の違う瞳、褐色の肌。他の誰とも違う」 「俺が住んでいた場所ではこういう肌の色は珍しかったし、左右の目の色が違う人も滅多にいなかったから、変な見られたなぁ。この島にはいろいろな人がいるから、自分の外見なんて気にならないけど」 「この島は、それこそ"坩堝(るつぼ)"ですね」 「初めて春雨と会った時、真っ黒で真っ直ぐな髪が珍しくて、ついじろじろ見ちゃったよね。覚えてる?」 「ええ。ずいぶん失礼なやつだなって思いました」 「ご、ごめん。あんまり綺麗だったから羨ましくなっちゃって。俺の髪はいくら梳いてもそんなに真っ直ぐにならないから」 「ヴァンの髪だって綺麗じゃないですか。金色の雲みたいで」 オールを漕ぐ手を止めないまま、ヴァンはくすぐったそうに目を伏せて微笑んだ。いつも嫌味ばかり言う春雨からのまっすぐな言葉はどうにも気恥ずかしい。  その恥ずかしさをごまかそうとして、ヴァンは大きくオールを漕いだ。推進力を得た船が背伸びをするように急に動いたので、春雨は小さな声をあげてヴァンの足にしがみつく。 「ご、ごめん!大丈夫?」 「ええ。この船って意外とスピードがでるんですね」 「うん、特に追い風の時は結構出せるよ。今度やってみる?」 「いいんですか?」 「うん。あ、でもちゃんと付き人さんに断ってからね。春雨を脱走させると思われちゃうから」 「本当にいいんですか?」 「え?う、うん、もちろん」 「本当に?」 「うん」 何度も確かめてくる春雨を不思議に思いながら、ヴァンは何度も頷いた。

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