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第42話「発言」
「本当に嫌だからね握手会とか。てかさ、考えて?俺の方が絶対顔良いよ?」
(それはそうだろうけどこの自信何なんだろうこいつ)
一瞬だけキリッとした顔で自分の方を向いてきた藤崎を見て「顔が良いな」と思いながらも、義人は彼の持っている大き過ぎる自信に少し引いた。
いつもの事ながら、顔が良い事を自覚している点も少し鼻に付くし、いちいちキメ顔をしてくる辺り趣味が悪い。
「顔じゃないんだよモモちゃんは」
そんな藤崎を少しいじめてやろうと、これまたいつもの事ながら義人は悪巧みをしてニヤつきながら口を開いた。
たまには悔しがる顔を拝んでやろうと言うのだ。
彼自身気が付いていないがこの考えは義人の自信過剰である。
浅倉モモを褒めちぎれば藤崎の悔しがる顔が見れると言うのはつまり、それだけ義人が藤崎に愛されている自信と自覚があるのだ。
チッチッチッと言いながら右手の人差し指を立てて左右に振り、得意げな表情をしている。
「顔もいいんだけどあの白い肌とかさ、」
「俺も白いよ」
「ぷっくりした唇とか」
「いつもチューしてんだから柔らかいの分かるだろ?」
「っ、、」
やりにくい。
分かってはいたが抵抗してくる藤崎が面白くも、食い気味で「自分の方が良い」と主張してくるがめつさにため息が出そうだ。
鼻をへし折ってやりたさが湧いてくる。
「短いけど細っこい手足のか弱さとか」
「え、、あー、、」
そこにきてやっと相手が怯んだ。
いくら藤崎でも、短い、とか細い、とかで自慢したい部分なんてないだろう。
ましてやか弱くて守ってあげたい女の子と比べるのもおかしい程、彼は筋骨隆々でガッシリした男なのだ。
義人より腕も身体も厚みがあって太く、手も脚も長いときている。
「くッ!!ダメだ。俺、ハイスペック過ぎて高身長だしハイスペック過ぎて筋肉めっちゃあるしハイスペック過ぎて義人のことお姫様抱っこできる、、」
(いや確かにそうだけどハイスペックってなに。押し付けがましいな)
あろうことか短い部分も細い部分もない、つまりは可愛げのかけらもないところは棚に上げ、藤崎は自分がどれだけ世間一般から見て羨ましがられる程に完璧な男であるかを義人に主張し始めた。
それもかなりナルシスト風でやかましい言い方をしている。
「そ、それにモモちゃんは何と言っても高くてちょっとアニメっぽい可愛い声が良いんだよ」
フン、と鼻を鳴らして藤崎の発言を聞いていないフリをしながら腕組みをし、義人は頷きながらまた浅倉モモを語った。
「ダメだ。俺、ハイスペック過ぎて彼氏が聞き惚れる低音ボイスだ」
「ふはっ!さっきからハイスペックハイスペックうるっせーな聞き惚れねえよ」
とうとう藤崎の悪ふざけに負けて義人が吹き出して笑うと、彼は得意げな顔をしてまたチラリと義人を眺める。
クスクスと楽しそうに肩を揺らしているのが見えた。
それはそれで愛しいのだが、藤崎としては義人が「浅倉モモ可愛い」と言った事を取り消していない問題に関しては少々ムカついている。
この男は馬鹿なことに、「可愛い」だろうが「格好いい」だろうが関係なく、義人が「良いな」と思う全ての感情の頂点にいるのが自分でないと気が済まないのだ。
つまりは彼に「可愛い」と言って欲しい。
「はあ。まあ良いよ、分かった分かった」
「ん?なに、諦めた?モモちゃんの握手会行って良い?」
「良いよ。浅倉モモができないことが俺にはできるんだよって分からせるから、夜」
「、、、ん??」
はあ、とため息混じりの藤崎の発言に疑問を抱き、義人は頭の上に複数の?マークを浮かべながら隣で運転している彼を見つめた。
道路の横のさとうきび畑は背が高く、人の背も超えていそうだ。
「そしたらもう浅倉モモのアの字も出なくなるよね。オーケーオーケー」
とうとう「浅倉モモ推し」よりも「藤崎久遠推し」に義人を引き戻してあげようと決めた藤崎は、仕方ないな、とでも言いたげにブツブツ独り言をいいながら頷いている。
「大丈夫。キャリーケースに結構色々たくさん詰めてきたから」
「え?ん、、ん?ゴムとゼリーの話し?」
昼からこんな話ししたくもなかったが、義人は少し照れながらも嫌な予感がして怖くなり、思い当たる節を彼に問うた。
「ううん。それ以外のやつの話し」
サラッとそんな返事をされる。
「ハ!?お前何入れたの!?なんか重くなった気はしてたんだよカバンッ」
「何って色々だよ〜。浅倉モモより顔が良くてハイスペックな高身長巨根彼氏として頑張るね。明日割とゆっくり起きる予定にしたもんね。最高にアンアン言わせるよ、大丈夫大丈夫」
「あんあん言わねえし!!じゃなくて、違う、え、無理、怖い、帰りたい、本当に何持ってきた」
「夜まで内緒」
「ヒッ、、」
ニコオッ、と腹黒い笑みが見え、義人は腰からうなじにかけて悪寒が駆け上がってくる妙な感覚がした。
相変わらず顔がいいところは好きだったが、こう言ったときの藤崎の笑顔程、見ていて嫌なものはない。
「ごめんて、あの、調子乗り過ぎた、ごめん」
「俺は他の子に可愛いって言ったことないのになあ」
「ごめんなさい、久遠、ごめんて、なあ」
「俺はひと言も他の子に、」
「ごめんってば!!聞けよ!!」
運転に集中しているのか、藤崎は口を尖らせて前を向いたままだ。
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