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第43話「宿泊」
「え、ここで合ってる?」
「ん?合ってるよ。部屋も広いしいいとこだよ」
レンタカーを停めて外に出ると、義人は唖然とした。
藤崎の知り合いの紹介で泊まる事になったホテルはいわゆるヴィラタイプで、ひとつひとつの建物の間隔は狭いものの、全て独立した一個の家になっている。
予約したのは義人でもちろんサイトに載っていた部屋の中身も確認していたのだが、写真以上に感じる実際の豪勢な部屋の内装に感動しきっていた。
2人だと十分な広さのある建物内はベッドルームとリビング、バスルーム、トイレがあり、どこもゆったりした雰囲気の作りになっている。
外にはテラスとプライベートプールがついていて、すぐ隣にある別のヴィラとの間を白い壁で仕切っていてお互いが見えないようにされていた。
(ちょっと高いけど思い切って良かったあ、、!!)
こんな別荘が本当に持てたら、と思わずにはいられない。
義人はまた興奮してヴィラの中をぐるぐると探検して楽しんでいた。
藤崎は運んできたキャリーケースをとりあえず棚の横にある窪みにはめて置いておき、夕陽の差し込むテラスを眺めてリビングのソファにボスンッと座った。
(遊び疲れた、、海ではしゃぐ義人が可愛すぎて死ぬかと思った、、)
2人は伊良部島に渡ってまず最初に「カフェ・すばる」と言う創作南の島料理の店に行き、昼食を済ませた。
名物のソーキがゴロゴロと乗ったピザやらタコライスが入ったホットサンドなど、一風変わったものが多く、驚きながら食べた。
車に乗り、ずっとなぞって来ていた道に戻って先に進むと駐車場のある海岸が見えてきて、目的地の浜辺だと言ってカーナビの案内が終わった。
遠浅の続くシュノーケリングに適した海辺に降り立ち、車の中でパパッと着替えて貴重品を持って海に出る。
日焼け止めを塗っていない2人の肌を刺すように太陽が照らし、熱さを孕んだ風が過ぎて行った。
泳ぎがあまり得意ではない義人だったが、藤崎と2人でゆったりと海の中を眺めているのは気持ちが良く、浮いているだけでいいのも気が楽で、ただただ遊んだ1日となった。
無論、途中で女の子の集団やら2人組やらに話しかけられる事はあったが、全て藤崎が対応して追い返していたのは言うまでもない。
夕飯はホテルのレストランを予約している。
移動、運転、遊びで疲れ切った2人は存分に海を堪能してから早めに切り上げて浜辺に上がり、駐車場横に併設されているシャワー施設に向かった。
無料で使用できるところまで義人の調べである。
「飯は本館行けばいいんだっけ」
「んー、あ、そうだった!!アグー豚と宮古牛が食べれるしゃぶしゃぶにしといた!!」
「うは。嬉しそっ」
貯めて来たバイト代は消えるものの、こうして2人で最高に楽しめる非日常も悪くないな、とお互いに笑い合う。
ヴィラの中を走り回って疲れた義人がソファに腰掛けながらそう言うと、藤崎はフッフッと笑って隣に座った彼との距離を縮め、トン、と膝同士を軽くぶつけた。
義人は携帯電話でもう一度レストランを予約した時間を調べ、部屋に置いてある時計との時刻を確認する。
「あと1時間くらいしたら行くか。こんな早くホテル来ると思ってなかったわ。疲れたな」
「ね。結構遊んだ。ウミヘビびっくりしたね」
「あははっ!久遠が急に足引っ張って来たからめっちゃビビった!」
「アレはごめん、義人が噛まれるヤベぇ!って慌てた」
浜辺のそばのシャワー施設でお湯で髪と身体を洗い流しては来たものの、やはり少し肌も髪もぱりぱりしている感じがする。
シュノーケリング中に色とりどりの小さな魚の間からニュルッと出て来たウミヘビを思い出し、義人と藤崎はケラケラと笑った。
「あ、シュノーケルと水着干しとくか」
「そうだね。外に干そう」
義人は用意がいいので、明日は明日の分で水着がある。藤崎もそうだ。
3日目の事も考えて洗面台でシュノーケルも水着も手で揉んで洗うと、テラスにポンと置いて乾かす事にした。
一応、飛んで行かない様に部屋の中にあった頑丈そうな置物を上に供えておく。
「んんーっ、寝そうだな」
グーっと伸びをしてあくびを噛み潰しながら、義人はまぶたと身体の重みが増したのを感じていた。
「義人」
「ん?んっ、、なに、急に」
テラスにそれらを置き終えて部屋に戻りソファに腰を下ろした瞬間、藤崎に顎を掴まれて、振り向き様にキスをされる。
そう言えば、お互い旅行と遊びに夢中でキスのひとつもしてなかったなあ、とぼんやり考えてしまった。
「したかったから」
額をコツン、と合わせながら、目の前の藤崎の美しい顔は優しく微笑んだ。
(あ、、そっか、2人っきりだ)
義人はそんな笑顔にすら、未だにドキッと緊張するときがある。
テラスに出たときは誰かがプールに入っている音、小さい子のはしゃぐ声や誰かの歌声なんかが聞こえて来ていたのだが、個室の中に入ってしまえば全てが遮断され、お互いの呼吸音がしっかりと聞こえる様になる。
「久遠、」
「今日ずっと名前で呼んでくれてるの、すごく嬉しい」
「んん、っ」
ソファの下に下されていた義人の脚を左手で抱えて上に上げると、藤崎は仰向けに寝転がった彼に脚を開かせ、上に覆い被さって角度を変えてキスを降らせる。
海の、または潮の匂いがして普段のお互いではないような、不思議な感じがした。
「ん、俺も、ずっと、義人って言ってくれるの、嬉しい」
ちゅ、ちゅ、と首筋から聞こえるリップ音に耳を澄ませ、聞こえてくるたびに肩を跳ねさせながら義人は目を瞑ってそう言った。
厚みのある藤崎の肩に触れてスン、と匂い嗅ぐと、やはりいつものシャンプーやボディーソープとは違う匂いがした。
「んん、可愛い。とろんとしたね。この後ご飯食べにいくんだよ?大丈夫?」
べろ、と首筋を舐め上げてから顔を上げた藤崎は彼を見下ろし、キス攻撃を受けてぽわんとしてしまった義人を見つめ、頬を撫でた。
赤く染まった頬も、扇情的に潤んだ黒い瞳も何もかもが美しい。
(可愛い、綺麗、、義人は本当に、)
心臓に悪い生き物だ。
そう思いながら、またちゅ、と軽く唇にキスを落とした。
「大丈夫、、大丈夫だから、もっと」
「もっと?」
「き、キス、しろよ。したいんだろお前だって」
「ふふ、好きだよ、義人」
塩味がしたりするのか?
と考えていたが、舌を絡め合うキスをしてもしょっぱさは感じなかった。
上顎を舐められて「あ、っ」と声を上げると舌にしゃぶりつかれ、そのまましつこく何度もぢゅるっと言う音をわざと大きく立てて吸い上げられる。
仕返ししても、またされ返されて、義人の息は上がっていくばかりだった。
「久遠、待って、はあ、、はあ、」
「ん、ヤバい。勃った」
「ぁ、俺も、、」
「くっつけていい?」
「えっ、、あ、いいけど、あっ、」
お互いに勃起したそれを見下ろしながら、上に覆い被さっている藤崎が腰を下ろし、義人の脚の間の膨らみに自分のそこを押し付ける。
お揃いにはしなかったものの、似たような短パン越しにムニ、と体温が擦れると、義人は堪らなく恥ずかしくなり、同時にやはり満たされる気がした。
「可愛い、勃ってる」
「ぁ、動くなよ、こすっんっ!擦んのは、やめろ、」
そうは言ってももう遅い。
2人だけの空間で、声も音も気にせずにこう言った事ができる環境にいるのだ。
藤崎の頭の中は、今夜どうやって義人を眠らせずにいようかとそればかりを考えている。
「はあっ、あっ、、はあっ、はあ、ん、久遠」
ずり、ずり、とゆっくり下から何度もこそを擦り合わせてくる藤崎を、義人自身、拒めなかった。
藤崎のそれが玉の下にあたり、ズズズ、と音を立てながら玉を押し上げ、もうこれ以上上がらないと言うところまでくると押し付ける力を緩めて玉が下にぶるんっと落ちていくのに合わせ、肉棒同士が擦り合わされる。
「だめ、久遠、飯食ってから、はあっ、あっ」
「ごめん、もう少しやりたい」
藤崎の視線は自分のそれを擦り付けている義人の脚の間の膨らみに固定されていた。
「ダメだって、言ってんのに、ぁ、これ、あ、これやだ、ゴリゴリしないで、」
「気持ちいいんだ?身体、ピクピクしてるもんね」
「あ、だめ、いやだ、んんっ」
ズリ、ズリ、とまだ満足できない藤崎にその行為をやめてもらえない。
熱くなった性器同士が服越しに擦れ合っていると考えただけでも義人は身体が火照っていく様な気がした。
「今日は声、我慢しないで」
「やだ、だめ、ダメッ、ぁんっ」
「義人の可愛い声、たくさん聞かせて」
「はあっはあっ、あ、ん、、ダメ、ぇ、久遠、イク、ぁ、イクっ」
「ん、やめる」
「あ、、」
もう少しで、と言うところで藤崎が動きを止めた。
強引に股間を擦り付けられて与えられていた快感がフワッとどこかへ消えていき、義人は息を整えながらもイク寸前で止められてしまったのがもどかしくなり、とろんとした顔のまま藤崎を見上げる。
「久遠、、?」
「ご飯の後なんでしょ?」
「ぁ、それは、そうだけど、」
でももう少しでイけたのに、、。
まだ身体に残っている快感のせいで、間隔を空けて義人の身体がビクッと跳ねるときがある。
藤崎は満足そうにその瞬間をいちいち眺めて、切なく細められた義人の視線に応える様に唇を奪った。
「後で」
縋りつきそうになる義人を宥めつつそう言って、優しくキスをして落ち着かせていく。
自分も辛さはあるものの、ここで襲ってしまってはダメなのだ。
彼の中ではまだ終わっていないものがひとつある。
(ぐっずぐずに犯しまくって、ぜーーーーったいに浅倉モモ推しやめさせてやる、、)
そう、まだ義人に「可愛い」と言ってもらってない。
ついでに言うなら、「浅倉モモ推し」の発言撤回も受けていない。
普段まったく義人の対して怒らない藤崎だが、こう言った事に関しての執着心は人一倍にあるのだった。
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